第5章 43話 春の秋桜

 一輪の花は、春ヶ原の花々に比べたら、目立たないかもしれない。


 だが、春ヶ原を越える風景なんて、風花の街にあるはずない。


 それでも風花なりに、優月を癒せそうなことを探した。

 それで、やっと見つけたのが、この秋桜だった。


「どう? 優月さん」

 風花は優月の表情を伺う。


 気に入ってくれたかな、気に入ってくれたかな……。


  優月は秋桜の前にすわった。 花を覗きこむ。


「春の秋桜もいいものですね。草花にも見せてあげたいです」


 いいながら、風花を振りかえった。


 風花はつい、優月の表情を見つめた。


 優月の瞳に熱がこもった気がしたからだ。草花の話をするとき、優月はよくこんな顔をする。

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