第5章 42話 一輪の秋桜

 藤原の御泉から湧き出た水は、小川になって住宅街を流れていく。


  途中で西に大きく曲がり、山合いの大きな川と合流する。

 赤い橋を越えると、川原は草で覆われる。 繁殖力の強い、早乙女葛だ。


 風花は圧倒される気持ちで、緑の絨毯を眺めた。 早乙女葛は、川原一面に蔓を伸ばしている。


 川に覆い被さり、水の流れも見えないほどだ。 ここに人が来ることはほとんどないので、草たちは伸々している。


 風花たちが歩く土手にも、青々とした草が伸びていた。


「ほら、優月さん、ここ」


  風花は立ち止まり、土手の砂利道の隅を指差す。


 霊体になっていた優月が、姿を現した。


「これですね……」


 優しい口調で彼はいう。


 風花が指差す場所には、一輪の秋桜が咲いていた。 狂い咲きの秋桜だ。

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