第5章 20話 かすかな霊力を

『ついさっきのこと……、私と優月が、もうすぐ藤原の御泉に着くってときのことよ』


 花を想わせる優しい声で、スーフィアは続ける。


『優月は朝日を浴びる木々が美しいといっていた。穏やかな朝だったわ。そんな暖かい日だったのに。急に空気が変わったの』


スーフィアは一度、言葉を止めた。


『なにか、かすかな霊力を感じたの。宙を行く私たちの斜め後ろに、なにが現れたのよ』


『それって、もしかして』


  夏澄の声が震える。


『現れたのは、あの風だったわ。襲われるのは春ヶ原だったはずなのに』


 頭の中の声とは逆に、スーフィアは優月の隣で、やわらかく微笑んでいる。

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