第4章 55話 夜風を浴びながら

 さらさらと音を立てて、葉が揺れる。


  立ち籠める竹の香りは、体を包んでくれているようだった。


「ねえ、夏澄くん」


  緊張気味にいった風花に、夏澄は、どうしたの? と振り向いた。


「わたしも手伝う。わたしにとっても春ヶ原は夢だから」


 夏澄は、風花の服を自分のほうに引いた。体勢を崩し、風花は夏澄の背中にぶつかる。


 今度は、互いに背中合わせで、もたれかかる形になった。


「だいじょうぶだよ」

  夏澄は風花の服を握る手に、力を込める。


「こうやっていれば、だいじょうぶ。嫌なことは忘れられるから……」


 夏澄の言葉は、魔法のようだった。 うれしいのに、風花は泣きたくなった。


「風花、帰り遅くなっちゃったね」


「ううん。わたしがここにいたかったんだから」


「もう少しこのままでいていい?」

「……うん」


「私も休みたいな」

 スーフィアがいい、うれしげに背中を向けて、風花たちに寄りかかった。


 風が流れて、竹の葉ずれの音が響く。


  夜風を浴びながら、風花たちはずっともたれ合っていた。

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