第4章 54話 両手に寄りかかる

 護りたいと、夏澄は続ける。


「俺、春ヶ原を護りたい」


 夏澄は力が抜けたように体を傾け、瞳を伏せた。

 瞳が潤んでいるように見えた。

 やっぱり、と風花は思った。


 やっぱり夏澄くんは優しい。


 こういうとき、一番悲しむのは夏澄くんだ。


 わたしもスーフィアさんも、悲しいと思っても涙は出ない。

 でも夏澄くんは泣くのだ。


 水の精霊は、本当に優しくできている。


「……」

 なにかいおうと思うが、言葉が見つからない。


 風花は夏澄の後ろに周り込んだ。よいしょと、両手を夏澄の背中に当てた。


「風花?」


「こ、こういうときはね、なにかに寄りかかると楽になるんだよ」


  ……だから、わたしが手で背中を支えるから、もたれてみて。


 そんな言葉を、なんとかうまく伝えたかった。 いい言葉が見つからず、沈黙が続く。


 ものすごく気まずかった。 頬が熱くなる。


「て、手で支えるから。寄りかかって、夏澄くん」


 夏澄は色のない瞳で、風花を見つめていた。


 少し風花の両手に体重をかけてくる。やがて、深くもたれて瞳を閉じた。

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