第4章 49話 夢みたいなこと

 瞼を閉じると、体が精霊のように、透明になっている気さえしてくる。


 目を開けると勘違いだと分かるが、心がわくわくと浮き立ち、やはり空を舞えそうな気分になる。


  遠くまで長く伸びる道を、蒼く霞ませる夜闇。

 通りすぎる温白色の街灯。 風花は自転車で風を切って行く。


  そうすると、ますます空を舞っているような、おかしな錯覚に陥る。


『なんか、嬉しそうだね。どうしたの?』


  夏澄が声を弾ませた。


「……なんでもない」

 風花はわらいを堪える。 自分が精霊になったような気がします。なんて、恥ずかしくていえない。


 こんな気持ち、子供っぽいだろうか。

 我に返ってそう思っても、わくわくは止まらなかった。


 自分は精霊たちと一緒にいる。


 そんな夢みたいなことが、改めて実感できた。


『えー、教えて欲しいな』

『そうよ、気になるわ』


  姿が見えないせいか、夏澄たちの声音は、いつもより色濃く聞こえた。


夏澄の声は、ぴちゃんぴちゃんと水面に落ちる雫のような響きの、澄んだ声だ。


 スーフィアの声は優しい。 色をつけるなら水色で、凪の海のようだった。

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