第4章 36話 夏澄が帰ってこない

 風花は庭の一番奥の、胡桃の木のところまで、飛雨の背中を押した。


「玄関から来るなんて、なにかあったの?」


  ゆり音に圧倒された表情でいた飛雨は、風花の言葉で我に返った顔をする。


「あのな、夏澄が帰ってこないんだよ」

  急にそわそわし出して、うめくようにいった。


「ああ、夏澄くんなら、春ヶ原に行ったよ」 「そういってたけど、夕方には帰ってくるっていったのにさ」


「あのね、一回……」


 一回帰ってきたけど、優月さんの体調がわるいから、もどったんだよ。


  そう告げようとした風花を、飛雨は遮った。


「オレ、心配だから、探してくるよ。だからさ、今日は訓練に来れないかもしれない。それだけいいに来たんだ。じゃあな!」


  いうなり、飛雨は風のように駆け出す。 すぐに姿は遠くなった。

 え?

 それだけ?


 風花は呆けて、後ろ姿を見送った。

 わざわざ玄関から来たから、すごく驚いたのにっ。

 そして、また置いてけぼり……。


  うつむいた風花は、飛雨に夏澄の行き先をいえなかったことに気がついた。


 夏澄に逢いたいとも思ってしまう。

 風花は無意識に、飛雨を追って走り出していた。

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