第4章 35話 ヴァイオリン

「いいよ、ママ」


 どうしてーと、ゆり音は拗ねた顔をする。


  風花よりも長いウェーブの髪を、指でくるくる巻いた。


「初めてくるお友達じゃない。だったら歓迎したいわ。もしよかったら、私のヴァ……」


「ヴァ……?」

  飛雨がふしぎそうに繰り返した。


 ヴァイオリンを披露する……、ゆり音はそういいたかったのだ。


  彼女はいつも、風花の友達に曲を聴かせようとする。

 わるいことではないが、急にいわれたら飛雨だって戸惑うだろう。


  ゆり音はセミプロの音楽家だ。 野外を中心に、ヴァイオリンやフルートなどを、相手の好みに合わせて演奏している。


「ありがとう、ママ。でも演奏は、今度ゆっくりね」


  風花は飛雨の背中を押し、一緒に玄関を出た。

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