第4章 29話 さざなみ雲の波打ち際

「そういえば、飛雨とスーフィアさんがいないね」

 風花は辺りを見まわした。


「飛雨は人が霊力を持つ方法を、調べに行ってる。スーフィアはまだ春ヶ原だよ」

「なにかあったの?」


「そうじゃないよ。だいじょうぶ。にわとりのビー玉がスーフィアになついて、離してくれなかったんだ。一緒に遊んでいるよ」


「そういえば、初めてビー玉と会ったときも、ビー玉はスーフィアさんから離れなかったね」


「あのとき、スーフィアに救われたんだろうね」


 春ヶ原に行ったときのことが、なつかしく思い出された。


「風花、見て……っ」

 夏澄がふいに声を弾ませた。顏をあげて、瞳に青空を映す。


「ほら、巻層雲が増えたよ」


 さっきまで、山の上だけにあった巻層雲が、空の半分まで広がっていた。

 東の空では、さざ波のようになっている。


「ねえ、風花。あの東の雲は、波状雲ともいうんだよね。なんか、あの波の雲に、足だけ浸かりたくなるね。本当の波打ち際にするみたいに」


 空の波打ち際。夏澄のいう風景が、ぱあっと空に広がるようだった。


 風花は、本当に空を歩ける気がしてきた。


 夏澄くんと一緒に、空の波打ち際まで昇る。波を浴びて水遊びをする。


 精霊の夏澄くんたちにとっては、当たり前のことかもしれない。


「ねえ、夏澄くん……」

「なに?」


「雲ってね、本当は光っていると思わない?」 「え?」


「雲を作っている水蒸気は 白に見えるけど、本当は光っていると思うの。元が水だもん、光を反射してきっと光ってるよ」

 

夏澄はじっと、風花の言葉を聞いていた。

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