第4章 11話 ベランダで飛雨は額に青筋を

「オレ、もう帰るよ」


 クローゼットから出てきた飛雨は、急にいった。


 疲れたような足つきで、ガラス戸に向かう。なぜか顔つきも憔悴仕切っていた。


「どうしたの? 飛雨くん」

「なにがだ?」


「なんだか、疲れているよね。もしかして、みぞれが吠えたから?」


  飛雨はぴたっと歩みを止めた。


「な、なにいってんだ。そんなことねーよ」 「でも……」


「おい、風花」


  え?  と風花は身構えた。


  飛雨がいきなり、額に青筋を浮かべたからだ。ベランダの柵に飛び乗り、風花を見下ろしてくる。


「お前さ、わんこに嫌われるオレは、夏澄と全然違うって思ってるんだろ?」


 え?

 風花は唖然として視線を返す。


「思ってないよ、そんなこと」


「そうだよ。オレは夏澄みたいに動物に好かれないよ。純粋なお前とも違うよ。でもな、そんなことどうでもいいんだよ」


 風花は返事が返せない。飛雨がなにをいいたいのか分からない。


「だめ人間だって、夏澄を手伝っていいんだよ。資格がないとか、矛盾があるとか、面倒くさいんだよ」


 お前、うるさいんだよ。と、飛雨は青筋を浮かべる。

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