第4章 6話 厳しい現実があるということ

「どういう意味?」


「夢は儚いってこと。夢の裏には厳しい現実があるんだよ」


「意味が分からないよ」

 訊いても、飛雨の返事はなかった。


「夏澄がさ……」

  飛雨は天井を見たままだ。


「夏澄はさ、もしかしたら、自分の故郷と春ヶ原を重ねて見ているのかもしれない」


「飛雨くんもそう思うんだ……」


  風花はうつむく。

 夏澄の瞳の翳りが思い出された。


 優しい植物と動物が暮らしていて、花がいっぱいで水がきれいな野原。

 春ヶ原を見たとき、風花は夏澄の故郷を連想した。


 きっと、夏澄も同じだ。

 春ヶ原と自分の故郷を重ねた。


 だから夏澄はきっと、優月たちとおなじくらい、春ヶ原が傷つくことを恐れている。


「なあ、風花。夏澄のためにも春ヶ原の夢を護ろうな。力を尽くそう。風花も協力してくれな」 「うん……」


「夏澄の故郷を元にもどすのは簡単に行かない。ずっと昔から叶わないんだから。これから、もっと時間がかかるなら思う。……でも、春ヶ原が護れれば、夏澄の救いになると思うんだ」


 夏澄くんの救い……。


 わたしも、優しい夏澄くんの悲しみはひとつでも多く消したい。


「ねえ、夏澄くんはどうしてる?」


「だから、北の渓谷と春ヶ原に行ってきた」

「そうじゃなくてさ」


  夏澄くんの心の様子が気になるのだ。

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