第3章 54話 泉の噂

 今日の夏澄くんはよくわらってくれた。


 一昨日は様子が変だったから、嫌われたのかと、心配だった。


 でも、いつもと変わらなくて安心した。


 そう思った風花は、はっとしてうつむいた。


 喜んでしまったことを、後ろめたく思った。

 

 今の夏澄はきっと、わらっていないだろう。彼の願いはまた叶わなかった。


 空に湧く泉の噂は、誤解だった。


 帰り際に優月に噂のことを確認した。


 ……それはさっき立貴が水晶玉で集めた水でしょう。

 萎れた植物を癒やす以外のときに、春ヶ原の空に水が集まることはありません。


 優月はそう告げた。


 ……今度こそ見つかるかもしれない。

 夏澄はいっていたけど、結局なにも分からなかった。


 いくら強い夏澄でも、傷ついていないはずはない。


 風花は鞄からノートを取り出した。


 今朝、飛雨とこのノートを見たときのことが思い出された。


 あのときはわくわくして楽しかったのに。

 希望は霧散してしまった。

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