第3章 48話 立貴の水晶玉

 草花は怯えた顔で、動物たちを呼び寄せる。

 護るように、両手を広げてかばった。

 

 透明な水晶玉のような物を、立貴は取り出した。


 彼はそれを両手で包むようにし、胸の前に持ってくる。

 瞳を閉じて、なにかを念じるようにした。


 しばらくして、水晶玉が青く輝きはじめた。


 太陽のように幾筋もの光を発し、野原を照らす。


 しろつめ草のほうに向かい、霊力を放ちかけていた夏澄は、それで動きを止めた。


 光はだんだん強くなり、ゆっくりと広がって、春ヶ原全体を満たした。

 

 大気が青く霞んだ。しろつめ草も、木蓮や花海棠の花々も全てが青く染まる。


 海の底に来たようだった。


 青い光の向こうの桃色しろつめ草は、紫紅色に変わっている。


 目に沁みるくらいにきれいだった。


 やがて、冷たかった風が止み、花の香りの暖かい大気がもどってきた。


 優月が大きく息をつく。


 青い大気は消え、元の世界の色に変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る