第3章 30話 一面の桃色の野原

 だが飛雨は、夏澄の戸惑った瞳に気づき、あわてて笑顔をつくる。


「……別に気にしてないし」


「本当に申し訳ございません。……では、こちらへ。私は柑実の精霊、優月ゆうげつと申します。春ヶ原をご案内いたします」


 優月に続き、飛雨が光のカーテンの向こうに消える。


 風花は緊張で足が動かず、立ち尽くしていた。


「風花……」


 夏澄が手を差し出してきた。風花は、右手を彼の手のひらに乗せる。


 夏澄に引かれて歩を進め、光の中をくぐった。


 まぶしくて、思わず目を閉じる。


 ゆっくりとまぶたを開けると、眼下に一面の桃色の野原が広がっていた。

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