第3章 26話 飛雨の怒りのオーラ

 風花は、山頂の岩場を歩きまわっていた。


 岩影を覗いても、木の周りを探しても、どこにも夏澄とスーフィアはいない。元々、見晴らしのいい山頂に隠れるような場所はない。


 風が乾いた葉を揺らす。冷たい風が吹き抜けていく。どこか殺風景な山頂はやけに広く感じる。


 風花の不安は募った。


 夏澄たちの身は安全だと飛雨はいうが、やはり心配だ。


「ねえ、飛雨くん……」

 風花と違い、飛雨は落ち着いている。岩の上であぐらをかき、木々を眺めていた。


 ただ、額に青筋が浮いていた。

 また怒りのオーラを放っている。


「あいつ、だだじゃ済まさねー」

 飛雨は押し殺した声をあげた。


 あいつとは、春ヶ原の精霊の青年のことだ。


 あいつという形容詞は似合わない、立ち居振る舞いの優雅な、とてもきれいな顔立ちの精霊らしい。


 飛雨の話では、夏澄とスーフィアはその青年に、春ヶ原に招待されたらしい。


 そして、風花たちはされなかった。


 だから今、夏澄とスーフィアだけいない。夏澄たちだけ、結界を越えて春ヶ原にいるのだ。


 きっと、人は春ヶ原に出入り禁止なのだろう。


 人は精霊たちに厭われているのだ。

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