第3章 24話 春ヶ原の空の泉

 それきり、飛雨はなにもいわなくなった。


 ありがとう、と、夏澄が風のようにささやくのが聞こえた。


「ねえ、スーフィアさん。夏澄くんが境界を越えたっていうのは……?」


「夏澄はね、動物とか植物を護りすぎて、霊力使い果たしちゃうことがあるのよ。山火事の時とか鳥の伝染病の時とか。だから、私たちは自分で処理できない時は、関わらないってルールを決めたの」


 だから……。

 風花は心でつぶやいた。


 だから飛雨は、夏澄が同じことをしないように叱るんだ……。


 歩を進めていた風花は、顔をあげた。


 登り坂が少しゆるやかになったからだ。山頂が近いのだろう。


 風花たちは、東の山の頂上にあるという、春ヶ原を目指していた。


 雪割草の精霊から、春ヶ原の話を聞いたからだ。


 春ヶ原では、精霊たちがたくさんの動物が護っている。


 だか、たまに数が増えすぎて護りきれなくなるらしい。そんなときは、周りに住む精霊たちに動物たちを預けてまわるそうだ。


 蓮峯山に着いたとき、夏澄は蓮峯山にたくさんの動物の気配を感じるといった。


 原因は春ヶ原だろう。


 ワンピースの少女も、春ヶ原の精霊だった。


 それに雪割草の精霊は、春ヶ原の野原のすぐ上に、水溜まりのように水が集まるのを見たといっていた。


 噂になっていた空の上に湧く泉があるのは、春ヶ原かもしれない。

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