第3章 20話 春ヶ原

「この仔は、春ヶ原の精霊に頼まれて、世話しているそうよ」


 しばらく黙っていたスーフィアは、まぶたを開く。


「春ヶ原?」


「東の山の頂上にある、春の気候が一年中続く野原ですって。そこで生まれた精霊たちが、たくさんの動物を護っているそうよ」


 夏澄は瞳をみはって、雪割草の精霊に歩みよる。


 彼女になにか問うように、かがみ込んだ。


 その夏澄が、急に、驚いたように後ろを振りかえった。


 木の枝を持ち上げ、森の奥を覗き込む。


 夏澄は一点を見つめていた。

 やがて、木々の間から、少女が姿を現した。


 怯えたような瞳の少女の前に、夏澄はそっと舞い降りる。なにかを話しかけ、優しく頭を撫でた。


 風花は驚いたが、飛雨たちは静観していた。夏澄が関わっていいのなら、少女は人ではないのだろう。


 さっき風花が見た、白いワンピースの少女だった。


 うさぎを抱き、泣きべそをかいていた。

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