第3章 19話 あらいぐまと雪割草の精霊

 一番前にいたスーフィアが、ふいに振り返った。 


 宙で止まって少しもどり、岩にかがみ込んで、地面を覗く。

 夏澄たちに手で合図した。


「どうしたのかな?」


「ここからは見えないけど、精霊がいるよ。気配がするから分かるんだ。霊力がちょっと、……かなり弱い精霊だね。どんな仔か分からないけど動物が一緒にいるよ」


 スーフィアが覗いているのは、岩影だった。そこには、小さい赤い花が岩と岩の間いっぱいに咲いていた。


 雪割草だ。


 その雪割草の横に半透明の女性がいた。雪割草の精霊だろう。

 裾が花模様の白い着物を着ている。


 横すわりして、ひざの上で眠る茶色い生き物を撫でていた。たぬきかと思ったが、あらいぐまだ。


 ふしぎそうに見つめる風花たちに、彼女は黙って微笑む。

 ……この仔は親からはぐれた仔ですと、小さな、声になっていないような声で告げた。


「彼女、まだうまく話す霊力はないのね」


 話せないなら、霊力で心の声を聞くわねと、スーフィアは微笑む。

 雪割草の精霊はうなずいた。


 スーフィアは瞳を閉じた。スーフィアの海色の霊力が、雪割草の精霊を包んだ。

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