第3章 16話 笹原の一本杉

 一本杉は、木々がまばらになった笹原の中にあった。


 まだ若葉をつけていない木々の中で、笹原だけが緑に染まっている。


 木陰に遮られない陽射しが、まっすぐ届いている。大きな円を描いている緑原だけが、陽の光に映えて、そこだけ明るい空間をつくっていた。


 笹原の真ん中に生えている杉は、二十メートルくらいの高さだ。


 葉がきれいな円錐形に茂っている。


「風花っ、飛雨っ!」


 明るい声が、光の笹原に響いた。


 夏澄が太陽のような笑顔で、手を振っていた。


 一昨日の帰り際のことを忘れたような、曇りのない表情だ。


「遠くからありがとうっ」


 夏澄はスーフィアと並んで、木から木に渡っている蔦にすわっていた。ふわっと、風花たちがいる岩場に降り立ってくる。


 首を傾けて瞳を細め、夏澄は、風花と飛雨の手を握る。


 陽だまりに立つと、夏澄の髪は、優しげな水色になった。

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