第3章 15話 夏澄は優しさの精霊だから

「で、でも、夏澄くんのことはなんとなく分かる……。気をつけるから、だいじょうぶ」


 事情はよく分からないが、たぶん、夏澄の恋はうまくいっていない。

 霊泉で逢った時の彼の瞳から、想いの強さも想像できた。


「それから、さっき姫の水があるとかいっただろ?」


「え? うん」


「その話もしないでもらっていいか? 姫って言葉も禁句な」


 ……なにが、相手を傷つけるか分からない。


 風花はノートの入ったカバンを握りしめた。


「教えてくれてありがとう」

「いや。オレのほうこそ、わるいな」


「……夏澄くんは、恋も願いも叶えられないんだね」

 優しさの精霊なんだから、もっと幸せになっていいのにね。


 飛雨はなにも答えなかった。


 ひとつひとつ、踏みしめるように、岩を渡っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る