第3章 9話 詮索厳禁

 遠い昔という言葉で、思い出されることがあった。


 風花はどきりとする。


 昨日、夏澄くんも同じ言葉でローフィという名のことを訊いた。


「ねえ、飛雨くん。もしかして、ローフィって名前のことを聞きたいの?」


 飛雨は顔を強張らせる。

「な、な、なんだよ、いきなり」


 飛雨の声は裏返る。何度も居住まいを正し、思い切り動揺していた。


「な、なんでローフィさんの名前が出てくるんだよ?!」


「だって、飛雨くん。昨日の夏澄くんと似たこと訊くから。……夏澄くん、様子がすごくおかしかったから。気になるの」


「知らねーよ。……いや、わるい。本当は知ってる。でもいわないぞ。夏澄の色恋沙汰、ぺらぺら話すわけねーじゃん!」


「恋……」


 いった風花に、飛雨はびくっと体を震わせた。左手で口を押さえる。


「恋なんていってねーよっ。聞き間違うなっ」


 裏返った声でいう。

 半泣きの顔になった。


「……ああ、もうっ。詮索厳禁。この話は終わりだ!」


 飛雨は、ふん、といい、風花に背中を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る