第3章 8話 ずっと前、遠い昔のこと

「……ここまでにしよう」


 長い沈黙が続いたあと、ふいに飛雨がいった。窓にもたれていた体を起こし、姿勢を正す。


「わるかったな。朝から暗い話して」


「え?」

 風花は口ごもる。


「違うよ。嫌だったんじゃないよ、でも、なんていったらいいか分からなくて……」


「聞いてくれただけでいいよ。それに昔の話なんだから、気に病まなくてもいい。オレだってもう忘れてるよ。……母上のこと以外は。それに、あれのお陰で夏澄と出逢えたんだから」


 飛雨は瞳を細める。


「奇跡だったんだよ。こっちのほうは絶対に忘れない。風花はどうだ?」

「え? なにが?」


「夏澄と出逢ったときのこと覚えてるか?」

「三日前のこと? 飛雨くんが記憶を消したときのこと?」


「いや、それよりずっと前。遠い昔のこと」


 意味の分からないことをいう。風花はふしぎに思って飛雨を見る。


 彼はやけに真剣な瞳をしていた。

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