第2章 40話 うさぎが来たぞ

 そうだ、もうひとつと、月夜はもう一度ぽんぽんする。


「パパが『お客さん』連れてきたぞ。茶色のうさぎだ」


 うさぎ?!


 風花は目をむいた。


『お客さん』とは、風花の父親が、職場から預かってくる動物のことだ。


 父親は獣医で、動物がいる公園で働いている。うさぎやりす、鹿などがいる公園だ。

 鹿や台湾りすの数が多く、広いスペースで飼育されていて、ふれあうことができる。

 風花は台湾リス広場が好きだ。


 その職場で、目が離せない仔がいるときに、連れて帰ってきて世話をすることがあるのだ。


「う、う、うそっ。見たいっ!」

「じゃあ、早く帰ろう」


 うれしいんだなと、月夜は満面の笑みを浮かべた。


 月夜は自転車に跨がり、アスファルトを蹴る。風花も後に続いた。


 下り坂なので、自転車はすいすい進んで行く。

 青い闇の中をくぐっていく。冷たい風が流れ、過ぎていく。


 夏澄くんは、海の底のような悲しげな色の瞳をしていた。

 わたしはなにもしてあげられなかった。

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