第2章 41話 森の中の影

 霊泉の南にある山の中、ひとつの影が闇に紛れていた。


 影は樫の木の枝に身を乗せている。幹に体を預けて、星を数えながら時間を潰していた。


 月はかなり高い位置まで移動している。


 あれから、ずいぶん時が過ぎた。


 水の精霊たちはもう眠っただろうか? 結界の中で、なにかが動く気配は、ずっとしていない。


 影はゆっくりと立ちあがった。


 枝を蹴って、霊泉のとなりの林めがけて跳躍する。


 唸る風を楽しむように耳を澄ませながら、消していた自分の気配を露わにした。


 露わにした気配を、また試しに一瞬で消してみる。木の上に降り立った。


 今度は、精霊たちが出てくることはなかった。


 水の精霊は自分の気配を読めないでいる。眠っていれば、先刻以上に御しやすいようだ。


 ……気配を消さなくても、近づくことができる。水の精霊の霊力は弱くなっている。


 それだけ確かめると、影は山の中へ消えていった。

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