第2章 39話 みーちゃんみーちゃん

 銀色の街灯がひとつ、駐輪場に灯っていた。


 丸く霞んでいる灯りが、なぜかとてもきれいに見える。月のようだと風花は思った。


 風花は振り返って、目をこらした。どこにも夏澄の姿はない。スーフィアたちも、もどってこない。


「まだ、遊び足りないのか?」


 月夜が息をつく。

「でも、今は我慢してくれな。また来ればいいかな? 次は昼間に」


 月夜は、自転車の籠に荷物を入れた。彼も自転車で来たようだ。


「…… ごめんなさい」


 ここまでの坂道を自転車で来るのは、大変だっただろう。好きで来た風花とは違う。


「いいよ。でも帰ったら、みぞれの散歩につき合ってくれ。まだ行ってないんだ」


「月お兄ちゃん、散歩権取っておいてくれたんだね」


 うれしいか? と、月夜は風花の頭をぽんぽん叩く。とても優しい目だ。


「ママが散歩用のおやつ作ってくれたよ。みーちゃんみーちゃん好物だってさ」


 愛犬に対する愛情は、風花の母親が一番強い。人よりも寿命が短い愛犬には、たくさん愛を送るのが信条だ。

 名前も人の倍呼び、愛情を渡そうとする。


 だから、みーちゃんみーちゃんだ。


 散歩権、ご飯権を考えたのも母親だし、庭にドッグランを造ったのも、ドレスを何十着も縫ったのも彼女だ。


 みーちゃんの本名はみぞれだ。みぞれはとなぎさは、風花の家の愛犬だ。

 みぞれもなぎさも女の子。ポメラニアンで、親戚の関係だ。

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