第2章 28話 幻術

「ここから出ていけば、だいじょうぶだよ」


「ありがとう、夏澄くん」

「じゃあ、今度は蓮峯山で……」


 夏澄の言葉は途切れた。彼は掴んでいた風花の手を、もう一度強く握る。やがて、ゆっくりと手を離した。


 風花は夏澄を見上げた。

 また、鼓動が速くなってきた。


 風花は夏澄から逃げるように、背を向けて駆け出した。


「月お兄ちゃん、ごめんなさい」


 霊泉を通り過ぎたところで、疲れた顔で夜空を見上げている月夜に、声をかけた。


「迎えに来てくれたの? パパたち、心配してた?」


 月夜はなにも答えない。風花に気づいていないように見えた。


「お兄ちゃん?」


 風花は足を止める。夏澄を振りかえった。

 夏澄がなぜかまだ、幻術を解いていないと気づいた、

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