第2章 22話 飛雨は自慢する

「飛雨、あれやってよ」


 ふいに夏澄は笑顔になった

 飛雨に向き直って、すわり直す。


「いいよーっ」


 飛雨は満面笑みを浮かべた。さっと立ちあがると、霊泉の中に両手を入れる。


 霊泉の水を掬い、宙めがけて水を撒いた。


 撒かれた水は、いくつもの丸い粒になって落ちてくる。うちの少しが夏澄にかかった。

 夏澄はあははとわらい、気持ちよさそうに瞳を閉じる。


 一瞬、なにをしているのか分からなかった。風花はじっと夏澄を見つめる。


 実は、風花もあんな雨を降らせるような水浴びは好きだ。


 だが目立つから、人前ではあまりできないでいた。

 自分ができなかったことをする相手を見るのは、ふしぎな気分だった。


「今のは、夏澄の心を癒やしたんだよっ」


 飛雨が自慢げにいった。


「木の病気を癒やすのに消耗した体力は、スーフィアや霊泉が癒せるけど、心は癒せないんだ。風花のいうとおり、夏澄は優しいから、いつもつらい思いをしているんだよ」


 飛雨はもう一度、夏澄に水をかけた。

 夏澄は心底にうれしそうにする。水の精霊だからだろうか。


「ありがとう、飛雨。今度は俺が飛雨を癒やすよ」

「だいじょうぶ。夏澄はすわってて」


 水の粒は、夕方の儚い光の中でも、きらきら輝く。

 落ちていって、夏澄の肩や水色の髪で弾ける。雫になって流れる粒も、細かくなって、髪に留まる粒もあった。

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