第2章 18話 水の精霊の国

「……どんな泉だったの?」


 自然と、風花の声にも感情がこもった。


「水の精霊の国の、空に浮かんでいた泉だよ。空のずっと高いところで、泉が湧いていたんだ。湧いた水は落ちないで宙に留まっていて、そこで泉になっていたんだ」


「夏澄くんの故郷って、ふしぎなことばかりだね」


「風花の世界からは想像できないことだよね。でも俺は、すごく尊いことだと思うんだ」


 だって、空に泉が湧くんだよ? どんな霊力の作用なのか、湧き水はどこから来るのか、全然分からないけど。

 まるで、奇跡みたいなんだ。浄くて浄くて、愛おしいんだよ。


 心底うれしげに、夏澄は続けた。


 風花の前を、霧が流れていく。


 霧に触れても、手がしめらないことに風花は気がついた。これなら、いくら寄りかかっても、服や髪は濡れないだろう。本当に癒やしてくれる霧なのだ。


 夏澄くんの周りは、ふしぎなことばかりだ。


「泉は浅く広がっていて、国全体の空を覆っていたんだ。たまに一部が雨として降ることはあったけど。洪水のときは、その水が全部落ちたんだよ。それから、湧き水は湧かなくなって、泉は消えたんだ」


「どうして、急に落ちちゃったの?」


「分からないんだ。外因とか、精霊の国の霊力が弱ったからだとか、罰だとか、いろいろいわれているけど、はっきりした答えは出ていないよ。でも、泉が消えたあとで、国は動物たちを護る力を無くしたんだ」



「……だから、夏澄くんたちは泉を元にもどす方法を、ずっと捜しているんだね」


「うん、もう千年は。長すぎて飽きれるだろ?」


 夏澄は笑顔でいる。そんな笑顔は、風花をちくんと刺した。

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