第2章 17話 空の上に湧く泉

「ありがとう、風花。でも、時間をかけましょうね。もし、風花に才能があったとしても、すぐに身につくものじゃないし」


「でも……」


「風花、無理しなくていいんだよ。人としての風花のまま、できることをしてくれたらいいんだ。それとね……」


 夏澄は一度、言葉を切る。


「風花にはお願いがあるんだ。……風花は蓮峯はすね山って知ってる?」

「え、と……。海のほうにある山?」


「俺たちはね、今度、蓮峯山に洪水伝説のことを調べに行こう思ってるんだ。風花も手伝ってくれる?」


 蓮峯山とは、県境に連なる山々の総称だ。ここから、東南の方向のある。車で一時間くらいの距離だ。


「蓮峯山にね、泉の噂があるんだよ。洪水伝説に出てくる、空の上に湧く泉の」


「空の、上に湧く泉……?」


 想いを込めて呼ぶんだなと、風花は感じた。

 問う風花に、夏澄は瞳を細めて答える。


「そう、空の上に湧く泉」


 唄うような声音でつぶやいた。


 夏澄の透きとおるような青い瞳に、泉への愛おしさがこもっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る