第2章 5話 新学期の幸せ

「隠すことないじゃん。教えてよー」


 ひろあはうれしそうに、風花の顔を覗き込む。二つに束ねてある、ひろあの髪が揺れた。


「だから、なにもないよ」

「やめなよ、ひろあ」


 興味なさそうに、やりとりを聞いていた香夜乃が口を開いた。

「風花はまだ話せないんだよ」


 まだ、という言葉に風花は青ざめた。


「香夜乃まで、なにいってるの? 本当になにもないよ」


「だって、朝からにこにこしっぱなしだったじゃない。誰か見たって分かるよ」

 風花は言葉を失う。


 ひろあが、あわてたように風花に向き直った。


「ごめん、風ちゃん。もう聞かないよ。あたしね、みんなでお祝いしたかっただけなの。だって、あたしと香夜ちゃんには入学早々いいことあったのに、風ちゃんだけまだだったでしょ」


 高校に入学してすぐ、ひろあには彼氏ができた。香夜乃は、憧れの日舞を習い始めたのだ。

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