第1章 26話 消えたまぼろし

「ねえ、風花……」


 夏澄はふしぎな響きで、風花の名前を呼んだ。


「水の精霊の国、幻術で見せてあげようか? きっと気に入るよ」

「え、ほんとに?!」


 うれしくて、風花は身を乗り出した。

 ふいにスーフィアが立ちあがった。


「夏澄、冷静にならないと……」

 夏澄は、はっとしたように瞳をみはる。


「でも、もう一度」

「もう、すっかり夜よ」

「……ごめん」


 夏澄は立ちあがった。飛雨になにかを瞳で合図したあと、川上のほうに歩き出す。


 どんどん風花から離れていった。

 飛雨とスーフィアは留まっているが、夏澄だけ離れていく。


 ふいに、霧の水輪の幻術が消えた。辺りはさあっと夜闇に染まる。

 冷えた風が風花の頬を撫でた。

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