第1章 9話 スーフィアの想い

 海の精霊のスーフィアは、静かにため息をつく。


 風花の言葉を少し寂しく思った。


 風花の記憶を消したのは自分たちだ。

 それでも、そのことを寂しいと思ってしまう。


 風花は忘れていても、スーフィアは彼女と何度も会っている。その分、親しみがある。


 風花とはいろいろな話をした。


 お互いに好きな海の話で盛り上がったこともあった。


 風花は純粋な子だ。


 人らしい無邪気さも好ましいと思う。できたら、このまま親しくしたい。


 ……でも仕方ないわよね。


 夏澄に関することで、譲歩はできない。


 夏澄はいつの間にか、川からあがっていた。


 浮かない顔で水面を眺めている。あの様子だと、ここの水の記憶からも情報は得られなかったのだろう。 


 夏澄は履物を履くと、木にもたれた。

 こちらに来る様子はない。


 風花がいるからだ。


 人である風花に関わるのを憚っているのではない。


 夏澄の風花に対する態度は、何処かおかしいのだ。

 恭敬したかと思うと急に気安くなる。そうかと思うと距離を取り、一貫性がない。


 夏澄は風花を目の前にすると、いつもいつも戸惑う。


 夏澄はどうしても、風花とうまく接することができないのだ。


 ……無理もないけどね。


 スーフィアが心でつぶやいたとき、川原の砂利を踏む足音がした。


 飛雨が風花の前に立った。

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