第1章 10話 飛雨のモノマネ

 いきなり目の前に立った飛雨に、風花は心底驚いた。


 飛雨は軽く視線を逸らし、小さな声でいう。


「本当に記憶を消していい? 風花」


 ひどく、いいにくそうにつぶやく。さっきと真逆で優しげな口調だ。


「ごめんな、ひどいことして。でも必要なことなんだ。人の世界には想像もできないような、その……、奸賊がいてさ。もし、夏澄のことが人の世界に伝わって、そういう人間に知られたら、夏澄の命が危なくなるんだよ」


 風花は少し戸惑った。

 スーフィアが嗜めるような瞳をした。


「飛雨、また夏澄のモノマネになっているんじゃない?」


「なんだ、それ?」


「その言葉と口調。夏澄そっくりじゃない。飛雨は本当に、夏澄のファンなのよね」


 飛雨は顔を赤くした。


「モノマネってなんだよ。するわけないだろ、そんなことっ」


 スーフィアを睨みつける。


「オレは優しくしているだけだよっ。絶対モノマネじゃないっ。取り消せ、スーフィア!」


「分かったわよ。私の勘違いだったみたい。ごめんなさいね」


「思ってないこというな!」

「思っているわよ」

「思ってないっ」


 彼らは何度も同じ会話を繰り返す。


「分かった。もういいっ」


 飛雨はキッと風花を見た。

「痛くないはないし、危険はない。安心しな」


 歩みよってくる。


 ……え?


 風花の記憶を消すのはスーフィアだと思っていた。

 問うと飛雨は、スーフィアにそんな霊力はないと一蹴する。


 飛雨は人差し指を立てた。指先が薄い、透明に近い水色に光る。


「行くぞっ」

「で、でも、こんな急に」

「もう充分待ったぞ。動くなよ」


 飛雨は人差し指を伸ばし、風花の額に向ける。


 風花はぎゅっと目をつぶって、体を硬くした。


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