第1章 4話 仁愛の精霊

「落ち着いて、飛雨。どうせ、すぐに後悔するんだから」


 彼女も精霊?


 少女は高校生くらいだった。


 腰まである長い金の髪に、海のような深い青の瞳。大人びた雰囲気。


 風が吹くと、髪がやわらかくなびく。衣と一緒にさらさら揺れた


 彼女も夏澄と同じで、なにか浄らかなふしぎさがあった。


「ごめんなさいね、風花」


「なんで、わたしの名前……」

「私たち、本当に何度も会っているのよ。私はスーフィア。海の精霊よ」


 スーフィアは少し瞳を伏せる。


「忘れているのはね、飛雨があなたの記憶を消したから。本当にごめんなさい。でもね、私たちは夏澄を護らないといけないの」


「護る?」


「夏澄はね、水の精霊なの。この世で唯一の存在で、仁愛の精霊とも呼ばれているのよ。彼だけは、人に存在を知られたらいけないの」


「仁愛……?」


「水の精霊の一族は、精霊の中で稀有なの。優しさだけでできていて、この世の動物や植物を護っているのよ」


 ……本当に逢ったことがある?


 いわれても、やはりとても信じられない。

 あんなふしぎな子を忘れるなんて、あるんだろうか。


 風花はもう一度、夏澄を見た。


 仁愛の精霊。


 なんてきらきらしているんだろう。この世に、そんな優しい精霊がいたなんて。


 夏澄は水の光の中で、儚げに立っていた。


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