第一章 春の出逢いと夢のはじまり

第1章 1話 春の川原で

 高校からの帰り道、波木なみき風花ふうかはいつもの川原に寄り道した。


 花がいっぱいの、優しい場所なのだ。


 春の花があふれている。


 土手に広がる菜の花。

 小さくてかわいい花。ほとけのざ、すずめのえんどうに、たんぽぽ。


 川岸には大きく枝を広げ、しっかりと根を下ろす桜の木。


 風花は土手を駆け下り、桜を見上げた。ちょうど漫開だ。花びらがひらひら舞っている。


 風花は木の根元で、砂利の上に寝転んだ。地面から見あげる桜は、本当にきれいだ。


 青空を背景にして、薄桃色の桜が揺れている。空はまぶしくてきらきら輝いている。


 風花は周りのきらきらしたものを、端から一つ一つ見つめた。


 根元から見る桜色の花びら。その向こうの青空。川原で揺れる水面。跳ねあがった水しぶきを留める青葉。


 この世はきらきらであふれている。きらきらを見れば、心が救われる。


 この世の中は悲しいことはかりだ。

 その悲しさがなくなることはない。だからこそ、光を見ていたい。


 風花は耳を澄ませ、川の流れの音を聞く。水音もきらめいていた。

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