第13話 フィッダ


「あーあー、また始まった」


 冒険者ギルドのマスコット的受付嬢こと私――フィッダは、冒険者たちのバカ騒ぎを眺めながら大きな溜息を吐き出した。


 はあ、カイルさん仕事はできて腕っぷしも強いのに酒癖が最悪なんだよな~。

 仕事が終わるといっつもそこで飲んだくれて、面白そうな人に絡むんだもん、厄介極まりない。

 あの坊やも気の毒だなぁ。

 あんな啖呵切っちゃって、こりゃあ泣くまで付き合わされるぞ。

 ま、私としたらお金さえもらえればなんでもいいけど……。


「……って、なんじゃこりゃ」


 ペルナートとかいう坊やの置いていった銀貨を改めて見て、思わず顔をしかめてしまった。

 これはガイアール銀貨……じゃない? なにこのおっさん?


「んんー……?」


「フィッダ、また金勘定かい」


「ああ、トリヤ爺さん」


 私が銀貨とにらめっこをしていると、エルフのトリヤ爺さんが声をかけてきた。

 彼は元D級冒険者だったが、長命のエルフ族といえど寄る年波には勝てずに引退し、今はこうして冒険者時代を懐かしむために、わざわざギルドへ酒を飲みに来る。

 いわゆる生き字引的な爺さんだ。


「またカイルのヤツが騒いどる、うるさくて敵わん、避難してきたわ」


「本当は賑やかなの好きなくせに老人ぶってぇ」


「かっかっか」


「ああそうだ、トリヤ爺、これなんだか分かる?」


「ほ?」


「ほら、そこにいる新顔の坊ちゃんが持ってきたんだけど、どこの銀貨かさっぱり分からないの、もしかしたら贋金にせがねかも……」


「ほほう? どれどれ、ワシに分かればいいが……」


 トリヤ爺は銀貨を一枚手に取ると、白い髭をふさりふさりなぞりながら、目を凝らして……。


「……!?」


 一瞬、トリヤ爺の顔色が明らかに変わったのを私は見逃さなかった。


「……」


「……トリヤ爺?」


「はっ、ああっ」


「どうしたのぼーっとしてさ、で? 結局その銀貨ってなんなわけ?」


「……いやぁ、こりゃ贋金じゃな。しかし有望な新人が捕らえられるのは忍びない。そうじゃ、ワシが手持ちの銀貨と交換して……」


 トリヤ爺が、震える手でポッケに銀貨をしまおうとする。

 ――瞬間、私はカウンターから素早く身を乗り出して、トリヤ爺の腕をひねりあげた。


「イデデデデデッ!?」


「爺! とうとう呆けたか! 言い訳が下手すぎるよ!」


「年寄りに優しくせんとバチが当たるぞっ……!」


「いいから言えっ! なにその銀貨は!? どこの国の銀貨!?」


「しょっ、正真正銘のガイアール銀貨じゃよ!! ただし三百年以上前のっ!」


「さ、さんびゃくねんっ!?」


 私は素早く銀貨をひったくってトリヤ爺を解放する。

 こ、これが三百年前の銀貨……!?

 ってことは、ここに描かれてるおっさんも……。


「よく見ろ……その銀貨に描かれているのは他でもない、賢帝マルクリド四世じゃ……ああ、お懐かしい……」


「じゃ、じゃあこれ……マジで三百年前の銀貨なの!?」


「なあ頼むよフィッダちゃん、それ譲っておくれよ……エルフ老人会で見せびらかしたら自慢できるんだよ……」


 トリヤ爺を無視して、私は騒ぎの中心にいるあの坊ちゃんを見つめる。

 ――君、本当に何者?

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