第44話 お守りが効果を発揮します!
教室の中は、かつてないほど異様な緊張感で包まれている。私とジョシュアの視線は、二人に釘付けになっていた。
「エリーザ。もしわがままが許されるなら、俺から話させてほしい」
「問題ありませんわ」
(……何と言うかエリーザさん、言葉選びが既に固いのよね。緊張しているからだと思うけれど)
これが通常運転なら、セラフィス殿下がエリーザ様の好意を感じ取る瞬間は皆無と言えるだろう。
セラフィス殿下は小さく一呼吸すると、しっかりとエリーザ様の瞳を見つめた。
「エリーザ。俺はずっと伝えるのが怖くて逃げてきた。もしかしたら、関係が壊れるかもしれないと思って。……でもこのままではいけないと、わかったんだ」
「…………」
エリーザ様は無表情に見えるが、不安そうな雰囲気が放たれていた。
「今さらと笑われるかもしれない。だけど、これが俺の本心なんだ」
「…………」
ぎゅっとエリーザ様が手のひらに力を入れたのがわかった。心なしか、肩が震えている気がする。
「エリーザ。俺は君が好きだ。初めて出会ったあの日から、ずっと君に心を奪われているんだ」
「…………」
「だから婚約者にも指名した。……権力を盾に使って、卑怯なやり方だったかもしれないが、エリーザを他の誰にも渡したくなかったんだ」
「…………」
エリーザ様の目が大きく見開かれ、口も少し開いた。驚愕の事実を知ったエリーザ様は、固まって動けなくなってしまった。
「この気持ちは今も変わらない。今もエリーザが好きで……好きで仕方ないんだ」
(……良く言ってくださいました、セラフィス殿下!!)
どこか恋愛面に頑固なエリーザ様には、これくらいハッキリと言わなければ伝わらないと思う。だからこそ、殿下の言いきる姿は聞いていて安心できた。
ただ、エリーザ様は処理が追い付かないのか、依然として固まったままだった。沈黙に耐えられなくなったのか、殿下は話を続けた。
「……本当に今さらですまない。エリーザに見限られているのもわかってる」
(あっ)
緊張感は一転して、暗い雰囲気が漂い始めた。
「エリーザが他の男を好きでも構わない。俺にあきれていても妥当だと思う。……それでも。どうか傍にいてくれないか。俺の婚約者はエリーザがいいんだ」
「…………」
どこか誤解が残った告白に、エリーザ様の瞳は動揺を生んだ。しかし、意を決したのか、ぎゅっと唇を一瞬噛み締めた。
「違いますわ!!」
「……えっ?」
エリーザ様は、かつてないほど大きな声を発した。今度はセラフィス殿下が驚く番だった。
「わたくしは……殿下を見限ったことなどございません。他の方を想ったこともありません。ましてや、あきれてなど全くあり得ません!!」
「エリーザ……」
ぐっと力をいれながら、反撃のように言い放った。そして、後ろの机に置いてあった刺繍のグッズに触れる。
「わたくしは、どんな時でもセラフィス殿下をお慕いしております。これは尊敬の念でも、婚約者という関係だからでもありませんわ。わたくしエリーザ・アプリコットが、セラフィス・アルヴェンテ様を心より好いているのです」
「エリーザ……」
笑顔はないものの、頬を赤くして一生懸命話す姿は、嘘には到底見えないだろう。
「わたくしは殿下を前にすると緊張してしまって、顔が怖かったと思います。ですがこの気持ちは嘘ではありませんわ」
「……」
エリーザ様は自覚があったようで、だからこそセラフィス殿下に自分の想いが完全には届いていないと理解していた。
「これをご覧になってくださいませ!」
「……これは?」
そう言いながら、エリーザ様は殿下に向けて推しグッズを見せる。
「殿下を……貴方を想って、ずっと想って、想い続けて、作ったものですわ。言葉にできない分、何か作って表すことしかわたくしにはできなかったから……」
不安げに殿下を見つめるエリーザ様。再び沈黙が流れた……かと思えば、殿下は一気に顔を赤くさせた。
「こ、これを、エリーザが? お、俺のために?」
「そ、そうですわ!!」
言い切るエリーザ様に、私までこっそりガッツポーズをしてしまう。勇気を出して、想いを伝えられている姿に感動がとまらない。
「……どうしてこんなに可愛いことをするんだ」
「!!」
その一言に、今度はエリーザ様が赤面してしまう。
「……エリーザ」
赤面を見逃さなかった殿下は、一気にエリーザ様に近付き手を取った。そして自分の胸に引き寄せると、そっと抱き締めた。
「この先もずっと……俺の隣にいてくれないか?」
「……もちろんにございます」
どこか泣き出しそうなエリーザ様の様子に、私まで涙腺が緩んでしまう。
(良かった……結ばれた……婚約者だけど、やっと結ばれたわ……)
おかしな話ではあるが、夫婦がやっと結ばれる例を見ている私からすれば、何も気にならない。それはジョシュアも同じだろう。
「良かったね、姉様」
「えぇ」
「……涙」
「えっ」
ジョシュアに涙を拭われると、今度は私が赤面してしまう。教室の中も外も甘い雰囲気で包まれたかと思った瞬間、空気を壊す声が響いた。
「あり得ない!! どうして悪役令嬢が殿下と結ばれるのよ!!」
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