第43話 すれ違いの原因を目の当たりにしています



 翌日の放課後。

 ジョシュアのクラスを待つ間、私とエリーザ様は誰もいなくなったことを確認して、教室で会議をしていた。


 エリーザ様の決意が固まると、次のセラフィス殿下登校日に備えて推しグッズの選定が始まった。


「こうなると想定して、もっと早くぬいぐるみを作っておくべきでしたわ……」

「エリーザさん。大切なのはどれだけ思いがこもっているかですから。初めて作られた物や、殿下との思い出が詰まった物を選ばれると良いかと」

「思い……」


 これだけ貴方を想っています、と伝えることを決めたはいいものの、エリーザ様は言葉に出せる自信がないとのことだった。そこで役立つのが、彼女が今まで作ってきた推しグッズである。


「それなら……この刺繍のハンカチにするわ。あ、あと念のため、刺繍のブローチも……」

「いくつかあれば、話が止まっても安心ですね」

「えぇ」


 私が言えるのはこれだけ。「言葉に詰まったら、グッズを見せましょう」だけだ。セラフィス殿下であっても、突然エリーザ様からグッズを見せられたら、それはなんだと突っ込みざるを得ない。


 だから、エリーザ様が言葉に詰まったとき用のお守りとしてグッズを持っていくことを提案したのだが、告白の舞台が学園ということもあって、全部は不可能だった。


 どれが最も想いが伝わるか。エリーザ様は真剣に選んでいる所だった。


「セラフィス殿下の登校日は明日ですよね?」

「えぇ……わたくし、上手くやれるかしら」

「覚悟を決めたエリーザさんなら大丈夫です。それに、告白に上手いも下手もありませんよ。気持ちを伝えたもの勝ちです」

「そ、そうよね……イヴェットさん。わたくし頑張るわ」

「応援しております」


 ぐっと両拳を胸の前に掲げるエリーザ様。私もそれに応じるよう、拳を掲げた。


「イヴェットさん。告白場所なのだけど、放課後の中庭とかどうかしら。停留場の真反対だから、人も少ないと思うの」

「いいですね。そもそもあそこは人が少ないですから、誰かに見られる心配はないかと」


 重要な告白場所の決め掛けた、その時だった。


 ガラガラガラ。


「姉様! アプリコット様!」

「あら、ジョシュア」

「ジョシュアさん」


 慌てた様子のジョシュアが教室に駆け込んできた。


「どうしたの、そんなに慌てて」

「大変だよ。今、正門に馬車が留まってる」

「……それって」

「うん。セラフィス殿下がいらしたみたい」

「「!!」」


 予想外の展開に、エリーザ様はもちろん、私まで固まってしまった。


「う、嘘。殿下がいらっしゃるのは明日のはず……ど、どうしましょう、イヴェットさん……!!」

「ま、まずは落ち着きましょう。何も今日告白するとは限りませんから」

「そ、そうよね」


 落ち着こうとする私達に、ジョシュアが追い打ちをかけた。


「そうとも限らないんだ。セラフィス殿下、こっちの校舎に向かって来たから」

「「!!」」


 セラフィス殿下は二年生なので校舎は違う。それにもかからず、こちらの校舎に来たということは、一年生に用があるとしか考えられない。


(ステュアートお兄様の刺激が上手くいったということ?)


 考えを整理しようとすれば、私の耳には足音が聞こえた。焦る中、私はジョシュアの手を掴んだ。


「エリーザさん。きっと大丈夫です。困ったら、もうグッズを全部出してしまいましょう」 

「えっ、イヴェットさん!?」

「幸運を祈ります!」

「頑張ってください」


 最後にそれだけ伝えると、ジョシュアの手を引いて教室の前の扉から出た。そして、入れ替わるように誰かが教室に入ったのだった。


(ジョシュア、静かにね)

(もちろん)


 しーっと人差し指を口の前に出す私と、頷くジョシュア。私達は教室の廊下側の窓からしゃがんで覗くことにしたそっと教室を覗けば、そこにはセラフィス殿下がいた。


「セ、セラフィス殿下……」

「エリーザ……今時間はあるだろうか」

「……ありますわ」

(エリーザさん、顔! 顔が怖いですよ!?)


 すれ違う原因を目の当たりする。エリーザ様の顔からは笑みが消え、緊張のあまり無表情に近いものに変化していたのだ。


(確かにあの様子なら、好意は伝わらないわ。むしろ嫌われていると誤解されてもおかしくない)


 エリーザ様の立ち位置を見ると、上手い具合に推しグッズは隠れている。セラフィス殿下の視界にはエリーザ様しか入っていないことだろう。


「何か重要なお話ですか。本日は登校日ではないはずですので」

「あ……」

(エリーザさん、圧かかってます!!)


 ひしひしとエリーザ様の緊張が伝わってくる。


(……もしかして、ゲームのエリーザ・アプリコットとセラフィス殿下は生まれたすれ違いを解消できなくて破局したのかしら)


 そう考えられるほど、到底思いあっている様子には見えなかった。


「あぁ。重要な話だ」

「左様ですか」

(エリーザさん、事務的になっていますよ!!)


 もう全部伝えてあげたいほど、エリーザ様への不安が膨れ上がっていた。しかし、その不安も晴れることになる。


「実はわたくしもです。わたくしも、殿下に重要なお話がありますの」

(言ったぁぁぁあ!!)


 喜びのあまりガッツポーズをしようとすれば、勢い余って後ろにふらついてしまう。その瞬間、ジョシュアに腕を回され支えられる。


(大丈夫?)

(あ、ありがとう)


 目線で会話をする私達。


(……いや! 今は私がドキドキする番じゃないから!!)

 


 

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