第40話 似た者同士の恋愛みたいです




 本当に温かい紅茶を飲んでから、話をすることになった。 


「それで、今日はどうしたの?」

「ステュアートお兄様にお聞きしたい事が」

「イヴが頼ってくれるなら何でも答えるよ」


 さらりと優しく承諾する辺り、お兄様のシスコンは健在のようだ。


「セラフィス殿下のお話を聞きたくて」

「セラスの?」

「セラス!?」


 まさかの呼び方に驚きながらも、お兄様なら答えを知っている期待が浮かび上がってきた。


「親しいんですか」

「親しい……いや、たまに話す程度かな」

「それは今でも?」

「そうだね。最近だと三日前に会ったかな」

(……どういう関係なんだろう)


 疑問を抱きつつ、ひとまずは話を進めた。


「それで、セラスの何が聞きたいんだい?」

「あ……セラフィス殿下は、婚約のことをどう思っているのか知りたくて」

「婚約を」

「はい。私が婚約者のエリーザ・アプリコット様と仲が良くてーー」


 エリーザ様が婚約を政略的なものと捉えているのに対して、セラフィス殿下はそうではない可能性があると考えていることを伝えた。


「なるほどね……ちなみに、セラスが政略的じゃないと考えた理由があるのかな?」

「はい」

 

 今日の放課後に起こった出来事を伝えた。


「……へぇ。ジョシュアはセラスに睨まれたの?」

「睨まれたというか。勘違いされたくらいですよ。気にしてません」

「それならいいけど」

(ブラコンも健在ね……)


 生暖かな目で見ていれば、ステュアートお兄様は答えを教えてくれた。


「結論から言うと、イヴの推察通りだよ」

「!」

「セラスはアプリコット嬢を自らの意思で選らんでる。もちろん理由には家柄だけじゃなくて、アプリコット嬢自身が良いからだけよ」

(両片想い……!)


 やはりあの視線は、好きな人を見る目だったのだ。新たな事実を手にできたことに嬉しさを感じる。


「僕からも聞いて良いかな? イヴがそう聞くってことは、アプリコット嬢に不安が生じてるってことかな」

(さすがステュアートお兄様。鋭いわ)


 問いかけに対してまず頷くと、そのままリスター嬢についての話を始めた。ジョシュアに付きまとっていたことを知ると「へぇ。身の程知らずなんだね」と笑顔を浮かべていた。


「セラスがリスター嬢といる光景を、アプリコット嬢が見たんだね」

「はい。普段は噂を信じるような方ではないんですけれど、自分の目で見たものは信じるので」

「僕も似ているから、彼女の思考はわかるよ。……そうか。それは完全にセラスが悪い。セラスの落ち度だね」


 にっこりと言い切られたが、不思議に感じてしまった。


「……リスター嬢ではなく、ですか?」

「そうだよ。ジョシュアはイヴに誤解されずに済んでいるだろう? 対してセラスは誤解されてる。落ち度が誰にあるか明確じゃないかな」


 そう言われてしまうと理解できる部分があったので、納得してしまった。


「でもこれだけは断言するよ。セラスはアプリコット嬢を想ってる」

(……でもすれ違ってしまっているのよね。どうしてかしら)

「僕がわかることを言うと、二人は似た者同士なんじゃないかな?」

「似た者同士? 殿下は不器用なんですか」


 エリーザ様は今でこそ普通のご令嬢として、私に接してくれる優しい方だ。しかし、恋愛に関しては物凄く不器用な方だと思っている。


(だから推し活を勧めた節もあるのよね)


 推し活を始めてからは、恋愛に関してもエリーザ様は明るくなった気がした。ただ、それはあくまでも自分に対してのみで、セラフィス殿下への根本的な考えまで変わることはなかった。


「そう言われると確かにセラスは不器用だと思うよ」

「なるほど……」


 不器用同士の恋愛。これはお節介かもしれないが、二人がくっつくには第三者の介入が必要不可欠だと思ってしまった。


(すれ違い続けたからこそ、悪役令嬢として破局する形になった気がする)


 もちろんヒロインという普通じゃない存在がいたこともあるが、それ以前にゲームの中の二人は冷めきっている印象だった。だからこそ、すれ違い続けたままではいけない。


「……お兄様。お願いがあるのですが」

「イヴのお願いなら何でも聞くよ」

「セラフィス殿下に発破をかけることは可能ですか?」

「発破か……うん。できると思うよ」


 私が接触できるのはあくまでもエリーザ様だけなので、セラフィス殿下の気持ちを動かせる役目をお願いしたかった。


「けれど少し懸念があるんだよね」

「懸念、ですか?」

「うん。セラスはどちらかというと恋愛に関しては……アプリコット嬢に関しては思い込みが激しいんだ」

「思い込み」

「自分は嫌われていると思っているからね」

「……嫌われてる。それはまたどうして」


 何をどうしたらそんな思い込みになるのか、単純に気になってしまった。


「聞いた話だと、アプリコット嬢は自分といる時表情が固いみたい」

(緊張しているだけじゃ……)

「何よりも、以セラスが他のご令嬢と噂になった時、アプリコット嬢は微動だにしなったことが気になっているみたいだよ」

「……それで自分に興味がないと思い込んでいる、ということですか」

「みたいだね」


 確かにそれでは、エリーザ様がリスター嬢との現場を見て気にしていると伝えても信じなさそうだ。


(どうしましょう。……殿下をどうすれば)


 悩み始めた時、ジョシュアが思いがけない言葉を発した。


「何だか……父様と母様みたいですね」



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