第38話 単独調査を開始します!
放課後すぐに登校されたのか、昼休み終了ギリギリで来られたのかはわからない。
(何を見ているのかしら……)
張り込みをしていたため、反射的に息を殺して本棚の裏に隠れてしまった。
(好きな景色があるのかもしれないわね。ここから見える夕日が綺麗だったり……)
エリーザ様の分もしっかり観察しようと集中した。セラフィス殿下の目線は下に向いており、空を見ているようには思えなかった。
(下? 図書館の下にあるものって……)
噴水か、はたまた中庭の生い茂る緑か。残念なことに、景色に関連するものがあった記憶がない。
(後で確認しましょう)
ひとまず表情から考察することにした。こっそりと入口付近から、窓際へできる限り近付く。殿下の顔が見える位置まで移動すると、再び息を殺して観察をした。
わずかに微笑んだり、どこか寂しそうな瞳をしたり、想像以上に豊かな感情が現れている気がした。
(えっ……怒ってる?)
途端に嫌そうに顔を歪める。どこか不機嫌そうな雰囲気が、突然醸し出された。
(な、な、何があったの……?)
わかったのは、殿下が見ているものが景色でないということ。何を見ているのか窓に近付きたい所だが、残念なことに窓際は一直線の通り道で、近付けば必ずしもといっていいほど見つかる。
(あ、動かれたわ)
もう眺めるのは済んだようで、不機嫌さを残しながら足早に図書室を退出していった。
「……良かった。バレなかったわ」
万が一にでも対面して顔が知られてしまえば、今後の調査に影響するかもしれないので、挨拶をしなくて済んだのは安心した。
(貴族令嬢としては品のない行為ね。……まぁ今に始まったことではないわ)
ははっと内心で自嘲気味に笑えば、殿下が居た場所に移動した。一体何を見ていたのか、確かめる必要があった。
キョロキョロと景色を観察する。
「やっぱり、特別綺麗な景色ではないけれど……」
至って変わりない、普通の青空だ。二階からの景色というだけで、王城が見えるわけでも、ここでしか見られない絶景というわけではない。
もしかしたらの可能性を考慮して確認したが、やはり景色ではないようだ。
「やっぱり下よね。……あれはーー」
下を見れば、そこには噴水も中庭もなかった。ただ、ルイス侯爵家をはじめとした複数の馬車が停まっているだけだ。
「馬車専用出入口……?」
そこは、私がよくジョシュアを待つために使用している学園内の停留場だった。
(ということは誰かを見ていたのよね。……まさかリスター嬢だったりするのかしら)
気分が乗らない考察だが、可能性は否定できない。最悪の場合として、エリーザ様が見たものが事実であり、殿下が本当にリスター嬢に惹かれてしまったとすれば、観察していてもおかしくはない。
(だとしたら、表情がおかしい気が……いや、おかしくないかもしれない……うーん。わからないわ)
はぁっとため息をつく。セラフィス殿下ルートをやったことはないため、彼の気持ちが全く想像できない。
(こんなことになるならやっておくべきだったわ……ジョシュア様一択! って推しを固定させてからは、やらなかったのよね……)
私は乙女ゲームをジョシュアルートに捧げた訳だが、まさかそれがここにきて影響してくるとは夢にも思わなかった。
「……まだジョシュアは来てないわよね」
ルイス侯爵家の馬車を見るが、御者しか見えなかった。
「うん。ここにいるからね」
「きゃっ!」
背後から声をかけられたことに、肩をあげるほど驚いてしまう。勢いよく振り向けば、そこにはジョシュアがいた。
「ごめん、そんなに驚くと思わなくて」
「びっくりしたわ。でもどうしてここに?」
「馬車に姉様がいなかったから、下でアプリコット様にお聞きしたんだ」
「下? 下って停留場?」
「そうだよ。……あっ。ちょうど見える」
「……それはいつの話?」
「ついさっきだよ。図書室と聞いて直行したから」
ここから見える場所にエリーザ様がいた。もしかしたら、セラフィス殿下はエリーザ様のことを見ていたのではという予想が浮かび上がる。
「ジョシュア……何か停留場で変なことはあった?」
喜ぶのは早い。そう思う理由が、停留場でちょっとした問題が発生した可能性も考えられるからだ。
「いや。特になかったよ」
何もなかった。それなら、エリーザ様を見ていた可能性は高まる。
「急にどうしたの」
「……ここで話すことではないから、馬車で話すわね」
「わかった。じゃあ帰ろう」
万が一にでも誰かに聞かれてはいけないので、馬車に乗り込んで出発してから伝えることにした。
「順を追って説明するわね」
「うん」
まずはエリーザ様の見た、殿下とリスター嬢との出来事を伝えた。
「……それでエリーザ様が不安になっていて」
「あぁ……そういうことだったんだ」
「え?」
「リスター嬢。僕との噂は流れなくなったけど、最近セラフィス殿下と親しいって噂が流れていたから」
「ジョシュアまで知ってるのね……」
噂に興味がないジョシュアでさえ耳にしたということは、かなり広まっていることが考えられる。
「いや、心配する必要はないよ。リスター嬢は僕との嘘の噂を流したから、皆彼女関連の噂はまるで信じてないよ」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。信じる理由も価値もがないからね」
(清々しそうな笑顔ね)
懸念する必要はないと、ジョシュアは断言するのだった。
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