第32話 女子会という形の作戦会議です!



 シルビア様の言うことは最もで、お母様はキャロライン様と決着が完全についたわけではなかった。


「アルフレートから報復はする旨があることは聞いたわ。でもするならば早く動かないと駄目よ」

「早く、ですか」

「えぇ。私の予想だと、デリーナ伯爵夫人はきっともう動き出している。考えられる行動は、自分の評判を戻すためにオフィーリアを落とす、とかかしら」


 キャロライン様なら十分やりそうだと思った。何年も自分がお母様を良いように操っていたので、彼女の中でお母様の評価は低いままで見下す姿勢のままだと思う。だからこそ自分の価値を“取り戻さねば”という考えになる。


「だからオフィーリア。貴女もデリーナ伯爵夫人を潰しにかからなくてはいけないのだけど……一つ聞いていい? オフィーリアはどうやって報復をしようと考えていたのかしら?」

「……何よりも真実を広めたくて。女性方に同情して欲しい訳ではないのです。ただ、キャロラインとこれから付き合う方への注意喚起をしようと……二度と私のような人間を作らないように」


 その言葉からは、お母様の無意識な優しさがあふれ出ていた。


(……こういう優しさが、皆様が好きになる理由なんだろうなぁ)


 一人静かに微笑んでいる間にも、シルビア様はどうするべきかお母様に教えていた。


「なるほどね。……確かにそれは大きな報復になるでしょうね。結局評判を下げることですから」

「……正しい評価にしたいです」

「するべきね。それに、成功すればとてもよい報復になるんじゃないかしら」

(頑張りましょうお母様……! でも具体的にはどうしたらよいのかな)


 この疑問を抱いたのはお母様も同じで、顔に薄っすらと不安を浮かべているとシルビア様が枠組みを提案してくれた。


「……二回お茶会を開きましょうか?」

「二回、ですか?」

「えぇ。最初はオフィーリアが約束したお詫びのお茶会を開くの。これは、ご迷惑をかけた方を招待するの。それで二回目はキャロラインも招待するお茶会――報復の場を開くというのはどうかしら?」

(凄く面白そう……)


 シルビア様が提案した案は、初回のお茶会にはキャロラインを呼ばないということだった。


「なるほど……ですがお義姉様。キャロラインに内密にお茶会を開くことは可能でしょうか? その、誰かしらを経由して伝わるのではないかと」

「その心配はないと思うけれど。そもそも今までオフィーリアとの交流を邪魔してきた人物よ。その彼女がいない場の方が、各自都合が良いというものでしょう」

「確かに」


 シルビア様の考えは凄く説得力があった。お母様もしっかりと頷きながら趣旨を理解している。

「……二回に分ける必要はあるのですか? 例えば時間をずらして招待することもできますよね」

「あら賢いわねイヴェット。もちろんその方法も有効よ。ただ聞いた話だと、オフィーリアはデリーナ伯爵夫人と縁を切ったと聞いたから」

「……私はそのつもりです」

「縁を切った相手を招待するのは正直嫌でしょう? だから二回目のお茶会は私が主催をするわ」

「「!」」


 シルビア様の発言はお母様への思いやりがひたすらこもっているものだった。


「……お義姉様の招待に応じるでしょうか?」

「応じるでしょう。自分で言うことでもないけれど、フォルノンテ公爵夫人からの招待状は他の人へ自慢できるほど価値のあるものだから。それにね、オフィーリアがルイス侯爵家にこもっていることもあって、私達の仲が良好だと知っているのはごくわずかなのよ」


 キャロライン様の人間性を考えれば、確実に招待に応じるだろう。


「……お義姉様。私お義姉様の案を実行したいですわ」

「あら、即決ね。もっと悩んでもいいのよ?」

「大丈夫です。……ずっと考えていたんです。どうしたらキャロラインに報復できるか。最良の形を考えていて……それで思ったのが、キャロラインが見下していた私が上であることを証明するのが一つのやり返しになると」

「良い考えね」


 お母様の目はいつも以上に意思のこもった強いものだった。


「なので、お義姉様の厚意に甘えられるのなら、私は少し権力を……格の違いをキャロラインに見せつけてみます。あまりそういうのは得意じゃないのですけど」

「そうするべきだと私も思うわ。……格の違いの見せつけ方ね。それは私にも任せてちょうだい。ありとあらゆる方法を用意しておくわ」

「私も探してみますわ……!」


 お母様がぐっと力を入れた瞬間、扉がノックされた。どうやら伯父様が呼んでいるようで、お母様は一度席を外すことになった。その間、私はシルビア様と待つことにしたのだ。


「イヴェット。ついて行かなくて良かったの?」

「はい。お母様の元に来るのではなく呼び出したということは、私には聞かせたくないようなのかと思いまして」

「相変わらず聡明ね。察しのいい子は大好きよ」

「えへへ」


 シルビア様に褒められると凄く嬉しくなってしまう。


「あ……あと、シルビア様にご相談とご提案がしたくて」

「あら、何かしら」

「二回目のお茶会、シルビア様主催のものを夜会かパーティーにすることはできませんか?」

「……なるほど、ルイス侯爵夫妻で参加して格の違いを見せつけるということね。凄く良い案じゃない」


 シルビア様の反応の良さに笑みが深まるが、内心は不安と決意で固まっていた。


 長年お母様とお父様の仲を妨害してきたキャロラインに、二人でいる場所を見せることこそ、大きな報復の一つになる。


(……できれば幸せそうな姿を)


 だからこそ、私は屋敷に戻ったらお父様への接触を試みることを決意するのだった。


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