帝都の赤ずきん
「オ、オロチさん……大丈夫、ですかっ?」
「モフリス、同行と言う形になるが、この場合問題ないだろうか?」
「……えっ、き、基本的には問題ありませんっ。パーティーなどの複数人行動も認められていますが……今回の場合はパーティーとはまた異なりますので……っ」
マニュアルをペラペラと捲るモフリスは焦りながらも文字を追う。
「
「了解した。依頼完遂に他人の力が不可欠だと判断したらすぐさま帰還することを約束する」
「私も約束しよう。だが、
「そっ、それでは通常依頼として処理いたしますっ! オロチさんっ、改めて気を付けていってらっしゃいませ!」」
ギルドを出ると、外には既視感のある馬車が止まっていた。
「ニャ~? シルヴァと……あれっ、さっきのお客さんニャ!」
「む、シャクロ運転手ではないか」
「ほう、シャクロちゃんと知り合いか?」
「先ほど、ちょうどこのギルドまで送ってもらった仲だ。友人と言ってもいいだろう」
「早ぇーニャ……」
何故か半眼を寄越してくるシャクロ運転手。
なるほど、タイミング的にシャクロ運転手が言っていた『お得意様』とはシルヴァのことだったのか。
「シャクロちゃん、すまないが彼も一緒に送ってもらえるだろうか?」
「ニャ~、人一人増えるだけニャらニャんの問題もニャいけど……珍しいニャ、シルヴァが誰かとニャんて」
シルヴァは横目でオレを見る。
その目には先ほどまであった懐疑のようなものはなくなったように感じる。
「……彼はなんとなく……いや、なんだろうな」
「ニャ~?」
釈然としないシルヴァは言葉を切り、オレに向き直る。
「貴殿は……すまない。まだ名前を聞いていなかったな」
「オロチだ」
「ああ、オロチ殿。改めてシルヴァ・レバティだ。騎士ギルド所属の
「ああ、よろしく」
彼女は納得したように頷くと、シャクロ運転手に振り返った。
「このように、彼は私を詮索しない。会話のテンポも独特で、雰囲気も不思議だ……結論、面白いからだな。そしておそらく――強さも申し分ないどころではない」
手放しの賛辞にむず痒くなり、一足先に馬車に乗り込んだ。
微笑まし気な視線が背中に突き刺さっている気がしないでもないが、努めて無視をする。
「と、言うわけだ。理由はこれくらいだな」
「ニャ~、確かにお客さんが不思議ニャのは知ってるけど……——そもそも人間嫌いのシルヴァがって話ニャ」
「そうだな、その理由はわからないが……彼は……何故だろうな」
「ニャんだそれ……まぁいいニャ。ほれ、乗るニャ! 北門まで特急で送るニャよ~」
「ああ、頼む」
そうして乗り込んだシルヴァとオレを乗せた
流れる景色のすべては未だ新鮮で、車窓からの眺めを楽しんでいると、シルヴァが足を組みなおしながらオレの全身をくまなく観察しているのに気が付いた。
「どうした?」
「あ、いや。不躾ですまない。オロチ殿は極東出身か?」
「そう見えるか?」
「違うのか?」
「極東出身だ」
「……う、うむ。やはり独特なテンポだな」
含み笑いを見せたシルヴァは、オレと同じく窓の外に目を向ける。
「隠然の社での不審死……今日冒険者になったばかりのオロチ殿に聞くのはおかしいかもしれないが、あの資料を見た上での率直な意見が聞いてみたい。数々の依頼失敗は、単なる偶然なのだろうか?」
「……なぜオレに?」
「……貴殿は同行を願い出た。もしや、心当たりがあるのではないか?」
「ただの興味本位だ……と言う可能性もある」
「ならばこれ以上の詮索をするつもりはない。私がオロチ殿の同行を許可したのは純粋な戦闘能力に利用価値を見出したからだしな」
さて、どうするか。
心当たりがある……とは決して言えないが、気になることがあるのは事実だ。
モフリスが提示した資料にあったのは依頼失敗件数と、失敗理由の内訳。さらに、隠然の社の上面図と、冒険者が死亡したとみられる現場の分布図。
しかし、不審死が続く隠然の社での死亡案件は、すべて
「シルヴァ」
「ん?」
「オレは今日来たばかりの余所者だ。失礼であったなら謝ろう」
「な、なにを?」
「この不審死、オレが思うに人為的に引き起こされている」
「————」
「オレは常識が足りない上に、世俗に疎い。だが、
好き勝手に語るオレに、シルヴァは口を挟まない。それどころか瞠目しながら頻りに頷きを返してくれる。
「で、あるならば……直接この目で見ることで気づくことがあるかと思い、同行を願い出た……この説明で、納得してもらえるか?」
「ああ、ああ。信じよう。それは概ね、ヘリオス上層の見解と相違ない。まさかあの資料の情報だけでそれを導くとは……オロチ殿の同行は渡りに船だったな」
「やはり、シルヴァは人為的事件であると知っていたのか」
「……それは?」
「冒険者相手に対人戦の経験を問うだろうか? それも
目を丸くしたシルヴァは、次の瞬間心底面白そうに破顔した。
「……参った。貴殿、ただの極東出身ではないな?」
「い、いや……オレは極東出身のオロチだ」
「ふふっ。その話は後日聞こう」
対面に座っていたシルヴァはすっと腰を上げると、オレの横に座り直し声を潜めた。
「ここからの話は他言無用で頼みたい。貴殿を見込んでの情報共有だ」
「少々警戒が甘いのではないか?」
「そう言ってくれるな。それに、そこまで推測できる貴殿ならいずれ辿り着く話だ」
耳元に掛かるシルヴァの吐息に一瞬肩を揺らしながら、囁かれる言葉に意識を集中する。
「この事件には、大陸中に秘密裏に指名手配がかかっている
■ ■ ■ ■
『さて、では今回の
「和服、黒髪、大太刀……流浪の極東人」
『名は?』
「——オロチ」
『上出来だ。では今回も期待しているよ、
「はい、
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