2話 出会ってしまった日の放課後のこと

 ずり ずりり ずり ずりり


 靴のかかとがアスファルトに擦れる音が通学路に響く。


「先輩、今日は用事があるんでその手を放せ。制服が伸びる」


「その用事をお姉さんに教えてごらん。急を要するものじゃなかったら、このまま私の家に連れてくからね?」


 それを聞いて一瞬、体が硬直する。


 なにせ本日の予定は書店にて、参考書と新たな相棒カッターを手に入れることだ。別に急ぎを要するものじゃない。


 今日じゃなくてもいいでしょ。その一言で論破されてしまうだろう。何も言わなきゃ、先輩の家コース。嫌だ。こんなのが住んでるところになんて行きたくない。


 どうしよ、なんも思い浮かばないんですけどぉぉぉぉぉ。



 。。。。。。。。。。。。。。


 結果として言うならば無念、の一言だった。

 抵抗する術をを持たなければ、従うしかない。それが自然の摂理である。




「はい、ここが私の家だよ!少し片づけるから待っててね」


 そう言って自分の家に入っていく先輩。


 よし片付けてる間にここから逃げよう。その姿が見えなった時、脳がそう判断した。いざ動こうと一歩踏み出す ―


「あ、逃げたらだめだよ後輩君。もしやったら覚悟してね!私、学校での影響力強いほうだから」


 こちら側に面した二階の窓からひょっこり顔を出し、俺に釘を刺す。


 カッター以外は興味ない秀は知らないことだが、白瀬 未希という女はよくモテる。週一で告られることが一時期日常になってたことぐらいモテる。学校の男子はかなりの頻度で彼女の話題を挙げるし、女子にだって気遣いができ愛想が良いため、交友関係も広い。


 比喩ではなく、本当に一人の学校生活は灰色にすることくらい彼女にとって造作もないことなのだ。



 

 おのれ、と思いながらも何も出来ずに先輩の家の前で待っていると子連れの親子が歩いてくる。


「ママー、あの人おうちの前でずっと立ってるのー!」


「あらあら本当ね。どうしたのかしら」


「ケンカしちゃったのかなー!」


「きっとおうちの鍵を忘れたのよ。さーちゃんはあぁなっちゃダメよ」


「うんっ」


 うんっじゃね~よ!


 いつの間にか反面教師にされていた。そしてそれを俺の前で言うなよ。特に母親のほう。お前なら急かすとかして口を閉ざすことくらいやれただろ。


 できれば音量を少し小さくしてほしかったぜ。無邪気な声が閑静な住宅街に響き渡っていた。


 そんなとき目の前のドアが開いた。


「やぁ~と片付けがおわったよ。ささ、入って~」


「お、お邪魔します」


 不肖 霧野秀、人生で初めて異性の家に上がります。






  


 入るとき、あの親子の会話が聞こえた。


「いえの中から女の人が出てきたっ。ユキみたいできれい!」


「きれいな人だね~。うふふ、もしかして互いの初めてを……」


「ママ、ニヤニヤしててきもちわるい」


「カハッ⁉」


 


 まさに因果応報。愛娘の口撃に今にも膝から崩れ落ちそうな母親の姿を見て、スカッとした。ざまぁ。











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カッターが好きな俺は、裂くもの探す最中に天敵と出会ってしまった 兎餅ミナカ @first-sing

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