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二〇一〇年 九月一八日 午前一〇時二三分
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それは痛みの記憶。ズボン越しに感じる小石の散らばった地面の痛さとか。遠くで騒ぐ同級生たちの歓声の痛さとか。そこから離れて一人で座り込んでいることの、痛さとか。
何度引っ越してもこういう時間はあった。遊びの時間。友だちの時間。最初は混ざろうとしたこともあったけれど、いつしか無駄だと思うようになってやめた。部屋の中で座っていると先生が無理に遊ばせようとするから、誰にも見つからない場所を見つけるのが得意になった。
「はいタッチ!」
突然、そんな痛さを蹴り飛ばすかのような大声と、容赦のない平手打ちが背中を打った。こういうときのやり過ごし方は知っている。ただ黙って座っているのだ。そのうち興味をなくしてどこかへ行く。
「はいタッチ!タッチ!タッチタッチタッチ!」
けれど今日の相手はしつこくて、黙っていてもどこにも行きそうになかった。それにやかましいし、背中が痛い。流石に無視できなくなって顔を上げてしまう。
「…… なに?」
振り返ると、その子は桜の木を背負って立っていた。その木のどこかで季節外れのアブラゼミが鳴いている。同じ組だったろうか。覚えていない。
「なにって…… ほら、タッチ」
今度はゆっくり背中に触れる。悪気があって叩いたわけじゃないようだ。単に元気過ぎるだけなんだろう。
「つぎ、そっちがオニだよ」
その当然だと言わんばかりの素っ気ない態度に、今日は言葉で説明する必要があるようだと悟る。
「…… やってないから、オニごっこ」
「ええ?でも、2くみはみんなやってるけど」
「うん、でも2くみにともだちいないから」
説明の言葉は最初から用意していたみたいにスルスルと出てきた。けれど、
「………… 」
自分を見下ろす二つの目がなんだか変な揺れ方をした気がして、咄嗟に顔を背けてしまう。
「ごめん」
反射的に吐き出した呟きは、白い地面に染み込んで溶けていった。
アブラゼミがジジジと声をあげて飛んでいった。
それは痛みの記憶。
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