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 二〇一二年三月七日


 この日、一年に及んだ日本戦争は米ソの仲介により一時停戦となった。


 初動の致命的な遅れにより緒戦で大敗北を喫した帝国軍だったが、木曽川水系を要害とする絶対防衛線の構築に成功し、人民軍の侵攻は名古屋都市圏で押し留められた。やがて装備の質や補給の面で優位に立つ帝国軍が反撃に転じ、一一年九月には戦線はかつての軍事境界線で拮抗、その後半年間も惰性的な戦闘が続いた挙句の停戦であった。


 最終的な結果だけ見れば引き分けと言えなくもないが、ほぼ全ての戦闘が軍事境界線の西側で発生したため、人的、経済的被害では帝国側が圧倒的であった。両国の死傷者数は北日の二五万に対し帝国は三八万。しかし帝国の死傷者のうち三〇万は民間人であった。


 これ以降、帝国では国粋政党が台頭し、デモと暴動が頻発化する中で政治情勢は急速に不安定化していく。落ち込んだ経済にも回復の兆しは見えず、失業率の増加、復興の遅延、戦災者の浮浪者化が重なり合って治安も急速に悪化した。


 こうしてにより日本帝国は極東唯一の西側の大国の座から陥落した。

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