第11話 保護
どうも皆様、おはようこんにちばんわ。真堂宗一と申します。今回紹介する物件はこちら。なんかよくわからない輸送機の内部ですね! もうちょう未来的! ハイテクすぎて意味不明! 先ほど搭乗させてもらった……というか搭乗させられたともいうか、周りにアサルトライフル所持した完全武装の男性が三人いて囲まれれば、乗らざるを得ない……輸送機ですね。いつの間にか浮上してて、移動しているようですね。しかも周囲をそれとなく観察してみれば、よくわからない機器が多々ある上に、未来を舞台にしたゲームなんかでよく目にする自動銃らしき物もあります。防犯対策は完璧ですね!
(……だめだ。もうなんだかよくわからんテンションになっている)
何とかハイテンションで乗り切ろうと思ったが無理な話だった。ともかく私は、謎の流体生命体と戦った後にやってきた輸送機に搭乗させられて、移動している。こちらとしてもあのまま荒野にいても死ぬだけなので非常にありがたいのだが、やはり言葉が通じないので、怖いと言えば怖かった。しかし、周囲に完全武装した男性がいるにはいるのだが、最低限の警戒はしているが殺意や憎悪といった悪感情は感じられないので、その辺りはまだ内心でほっとしているものだった。
私が所持している奉納刀を元ある神社に奉納しようと話を詰めて、ついに奉納する日が来たと色々感慨深い思いで境内を移動していたら、異世界に転移したと思しき状況だった。それも若返った上で。病気が現況どうなってるのかは謎だが……今のところ違和感を一切覚えてないので、恐らく完治しているのだろう。
(不治の病が治ったというのに、言語能力はないとか……ちぐはぐよな……)
しかしそんなご都合も言語の壁には勝てなかったらしい。廃墟をしばらく散策して見つけたのは墜落したと思われるコンテナと、その中に収納されていたロボットだった。
幸か不幸か、ロボットの中身は普通の人間で、周囲に完全武装した男がいる。また私が最初に遭遇したロボットと、輸送機に積み込まれていたロボットのパイロットは、両名どちらもロボットからは降りており、二人とも私の近くにおり、その二人も普通の女性だった。少なくともこの場での男女比は3:2。
これだけではまだ謎だが……それでも今現在だけで鑑みれば、男女比は普通に思われた。これで少なくとも転移物語でよくある「男が転移してきた! 男が世界に主人公しかいないから種馬にしたいんだけど、でも主人公しかあつかえない武器が強すぎて悔しいけど戦ってもらうしかない!」という状況ではなさそうだった。
(まぁ武器は持っているというか、持ってしまったと言うべきか。だがそれでもとりあえず……種馬にならずに済みそうでそちらは安堵できるな)
内心でほっと溜息を吐いていた。すでに還暦を過ぎた身なれど、性欲が無いわけではない。だが、最後に致したのは果たして何十年前まで遡るのか? 彼女もいなかった私としては、そういうお店に行くしかなかった訳なのだが……高額なお金を払ってまでしたいと思うほどではなかったのだ。その金を趣味か飲み代に回すのが私だったのだ。故に……そっちの自信は皆無だった。
(いや、種馬だったら文字通り種が出せれば良いので、腕前など必要ないのだろうが……)
「あの……もしもし?」
実に下世話で下らない思考を巡らせている私に声を掛けてくれたのが……すぐ側まで来てくれた、最初に出会ったロボットの搭乗者だった。
童顔だが、実に可愛らしい目をしており、十分に可愛いと言える容姿をしていた。その愛らしい小顔を肩に掛かる程度の紺色の髪が飾っていた。背丈は私よりも低いだろう。私の知る知識で見れば、日本人の平均的女性の身長といえた。後は特徴的に……肢体が実に女性的な肉体をしていたのだ。
(下品な言い方をすればボンスッボンですね)
先ほどまで着ていた全身タイツのようなスーツの上に、上着の服を着たのでボディラインが少しわからなくなったが、先ほど一応全身見たのが脳内に残っていた。ちなみにスッという擬音は、そこまでではなかったという事である。しかしそれはあくまでもグラビアアイドルに出てくるような、努力の塊というか……それを死ぬ気で頑張っている人と比べればという前置きがつくもので、非常に素晴らしい肢体をしていた。
(枯れたと思っていたというか、枯れているのだが……肉体が若返ったからか?)
一応老熟した精神で何とか不快にさせるような視線はしないように出来たと思う。が、やはり年老いても男というべきか、女性の肢体を見て多少なりとも興奮してしまうのは致し方ないことだろう。
「どうかされましたか?」
そんな下らないことを考えていたら、再度女性が声を掛けてくれる。といってもこちらもあちらも、未だ言語の意思疎通が図れないので、何を言っているのかは理解できない。しかし、心配そうに柔らかく微笑みながら声を掛けてきてくれているので、心配して声を掛けてきてくれたのはわかった。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
全く持って何が大丈夫なのかと言いたくなる状況なのだが……しかし先ほどの廃墟で、あてどなくさまよっていれば早晩死んでいたことは想像に難くない。それを考えれば、言語が通じない位、問題はないだろう。
(老化した脳みそ……ではないのか? だが少なくとも老化した思考で、言語が直ぐに学べるかは謎だが……)
最後に海外に行ったのは、射撃がしたいためにハワイにいったのみで、英語すらまともに喋れない。海外に出ないのだから必然的に日本語で事足りてしまうので、語学勉強などする気力も湧かなかったのである。
「えっと……今はまだ通じないかも知れないですけど、何とか会話を続けてください! 言語翻訳機がデータを蓄積すれば、会話が出来るようになるはずです!」
「は、はぁ? えっと……ありがとうございます? 本当に助けてくださって感謝しております」
「話せるようになったら、キチンと自己紹介させてくださいね!」
「この恩義は、何とか返せればと思います。といっても、私自身、今の私の現況を理解できておりませんし、あまり現金の持ち合わせとかもないのですが」
恐らく会話の内容がわかれば、実にとんちんかんな内容の会話をしていること間違いないだろう。しかし何故かその後も積極的に、最初に出会った女性はこちらに声を掛けてきてくれていた。そこまでいってようやく私は、一つの可能性に思い至った。
(翻訳機械があるのか?)
これほど高性能な機械がある世界だ。翻訳機があっても不思議ではないだろう。ならばこれだけこの女性が話しかけてくれる理由がよくわかる。ならばこちらも話を続けるべきだろう。
(だが……その前にどうしても知りたいことがある)
これだけは伝えたいのと、知りたい欲求があったので、私は自らを指さした。突然の私の挙動に女性が面食らったようにするが、それに構わず私は続けた。
「ソウイチ」
「? はい?」
「ソウイチ。ソウイチ」
名前を連呼しつつ、そのたびに自らを指さす。何度かしていて、相手もわかってくれたようだった。彼女が自らの胸に手をやって笑顔でこういってきた。
「マヤ」
「マヤ?」
「そう! マヤ!」
ほぼ間違いなく、マヤというのが、彼女の名前と判断して良いだろう。次に、私は私のことも理解してくれたのかを確認するために、間抜けに見えるが、自らを指さして言葉を発せずに待った。
「ソウイチ」
彼女がそういってくれたことに安堵して、私は深く頷いた。そうして互いに嬉しくなって……互いに笑顔になった。
「マヤさん」
「ソウイチさん!」
何度か名前を連呼したのだが、直ぐに恥ずかしくなって今度は互いに苦笑した。
その後は普通に会話をするようになった。といっても……まだ言語が通じてないので、ちんぷんかんぷんな会話になっているのは間違いないだろう。しかし私はめげずに……自動翻訳機があると信じて言葉を続けた。マヤさんも言葉が通じてないのに、話しかけてくれる。翻訳機があると信じたい。
そうしてしばらく声を掛け合っていたのだが……機内に何か音が流れてきた。
『そろそろ基地に到着する。特に問題はないが基地に入るまでは完全に警戒を解くなよ』
「「「了解」」」
「はい」
何を言っているのかは謎だが……周囲の様子から言って悪い状況ではないのだろう。というよりも、常識的に考えれば安全地帯に着いたと考えるのが妥当だろう。しかしそれが果たして私にとって良い状況になるのかは謎ではある。
(まぁこうして助けられた以上、直ぐに殺されるということはないだろうが……)
安全地帯に着たと思しき状況で、安堵感と危機感が心の中で同居するという……実に悲しい状況だったが、何とかするしかないだろう。そうして私が決意を新たにしていると……後部ハッチが開いた。
「おぉ!?」
着地している衝撃が皆無だったので、思わず真面目に驚いた。実に間抜けな姿だったので、周りがキョトンとしているのが見て取れた。それに少し恥ずかしい思いだったが……直ぐに姿勢を正して決意を新たにした。
「行きましょう、ソウイチさん」
そうして私が覚悟を決めていると……マヤさんが気を利かせてくれて、声を掛けながら手を差し伸べてくれた。その手を取る勇気は正直色んな意味で無かったので、規律正しく頭を下げて、私は一つ大きく息を吐いて足を踏み出した。するとそこはまさに格納庫というべき場所で、そこには数多の人がいてこちらを見ていた。
「あれが民間人?」
「何で廃墟のあの場所に?」
口々に何かを言っている様子だが、遠い上に全く聞こえないし、そもそも言語も理解できない。なので言葉ではなくとりあえず男女比を見てみたが……ほぼ均等に見えた。これにてようやく種馬化は回避できると安堵する私だった。
「よくぞ戻ってきた、真矢少尉」
輸送機を降りて、直ぐに出迎えてくれた人物が何かを言ってくる。近くにいたこと、そしてその身から発せられる圧に……私はそちらへと視線を向ける。
(……出来る)
立ち居振る舞いや雰囲気から、確実に実力者と言える雰囲気を醸し出している女性だった。周囲の人間は様々な衣服を着ている……作業服、マヤさんと同じインナースーツと上着を着た者、銃器はないがほぼ完全武装の人……中、この女性は明らかに他よりも上等な衣服を着ていた。そして、見た目完全に上位軍人が着るような礼服を着ている。
黒くしなやかな髪を無造作に背中半ばまで伸ばしている。無造作だと見てわかるというのに……それが様になっているのが恐ろしい人物だ。見るだけで人を射貫けそうなほど鋭い視線。顔はまさに美人と言っていい。背丈は私よりも少し高いだろう。
(私の背丈は日本人の平均身長でしかないが……)
肢体はもうこれ以上内ほど美人と言って良い体躯だ。出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。手足はどちらもすらりと長く、しなやかだった。
だがそれ以上に言うべきことは、このあまりの圧だろう。実力者なのは間違いない。そして軍服を着ている事も考えれば、この基地の上役と言うべきだろう。実力を有している雰囲気に、確実に出来るオーラを放つ超美人。末恐ろしい人物だった。
(天は二物を与えずとは……まさに持たざる物の僻みよな)
当然ながら私は持たざる者の側である。
「篠村司令。お出迎え感謝いたします」
「まさかお前が最高責任者権限をフル活用するとは思わなかったからな。それだけで事の重大さはわかる。その上……民間人とはな……」
マヤさんに声を掛けていたと思われる状況で……最後にこちらに目を向けてくる、軍服を着た女性。その見るだけで人を射抜けるような目が……私に向けられた。その瞬間、思わず一歩だけ後ろに下がって構えそうになった。
「……ほう?」
その私の動作を見て……軍服の女性が実に妖しく笑った。その笑みが……ひどく恐ろしく見えたのは、私の気のせいではないだろう。
「まぁともかく……報告を聞いてからだな。ただ、保護したその男性は言語が通じないのだったな?」
「はい。帰投するまでかなり互いに言葉を交わしたのですが、未だ言語が整ってないみたいです」
「ふむ、そうなると……真矢少尉。その民間人に付き添って検査を受けてもらえ。輸送機で簡易検査は終えているから、精密コンテナに入ってもらうだけだろう? そしてその間報告書を少しでも良いからまとめておけ。検査が終わり次第、二人で私のところまでくるように」
「わかりました」
何を言っているかは謎だが、軍服の女性が背を向けて去っていく。何となく安堵してしまう自分に苦笑していた。そして今後の扱いがどうなるのかは謎だが、ともかく指示通りに動くしかないだろう。
(言語が通じないので、なるべく何事も無ければ良いのだが……)
そんな不安を覚えてはいたが、それでも何とか生きていける拠点にたどり着いて、内心ほっとしていた私であった。
無論不安はあるが、のたれ死ぬよりはマシだろう。
(さて、吉と出るか凶と出るか……)
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