第5話 FME

!!!!

 聞いたこともないほど、凄まじい高い金属音のような物が発せられると同時に、コンテナの中に新たな光が差し込み、次の瞬間には凄まじい爆発音が響いていた。

「おぉ?」

 思わず私は間抜けな声を上げてしまう。外の様子を見たい気持ちにかられたが、顔を外に出した瞬間に、ロボットの敵と思われる存在に射殺されても嫌なので、おとなしくすることにした。すると、先ほど機械と思しき物体が突如起動し、空中に映像を投影し始めた。

「おぉ……マンガで見るような立体映像……」

 ロボットがいる時点でも十分理解していたが、私が住んでいた現代日本よりも、遙かに科学技術が進んでいるようである。空中に投影されたのは、立体マップとカメラで捉えた映像だ。そして更に驚いたのが……そこに映し出されたロボットが、戦っていると思しき存在の姿だった。

「……面妖な姿だな」

 何とか言葉に出来たのがそれだった。映像故にサイズは謎だが……もうなんというか、まさに映画のエイ○アンみたいな見た目をした生物だったのである。しかし不思議なのが、ロボットの攻撃で吹き飛ばされた時……血液などを撒き散らしていないのである。しかも吹き飛ばされた瞬間に形を失って……水銀のような流体金属に姿を変えて、そのまま地面に溶けていった。

「……うーむ」

 全く理解できない状況に唸るしかない。しかし唸ってばかりもいられない。何せ数があまりにも多い。そして先ほど見たロボットは、数を相手に出来るような武器を、装備しているように見受けられなかった。遠距離武器はあるようだが、見た目からマシンガンみたいな、連射できる得物ではなかった。

 実際、映像に映し出された背中の射撃武器の攻撃も、大砲を撃つような感じで一発一発撃っている。両手にハンドガンを装備して撃ちまくっているが……どんどん敵に近づかれている。

「これは……間違いなく抜かれるな……」

 敵の狙いが何かは謎……あり得ないとは思うが、ロボットを破壊したら撤収するかも知れない……だが、ロボットが私をコンテナに入れたことを鑑みても、人を襲うのだろう。ならば自然に考えられるのが……私も謎の生命体に、狙われる可能性があると言うことだ。

「ふむ……」

 ここで再度周囲を見渡すが……武器はあっても、それはロボットが使うサイズ。人間の私が使えるはずもない。そして仮に人間サイズの銃があったとしても、私には使いこなす自信などない。平凡な日本人である私は、射撃訓練など受けたことがないのだから。

(まぁ……遙か昔にグアムで銃を撃ったことはあるにはあるのだが……)

 銃を撃たせてもらうサービスを利用したことはあるが、あれも弾を撃ち尽くして終わりだし、的は撃てても動いている生物を、撃たせてくれるはずもない。となると自衛する手段は、自分が他に使えそうな得物を見つけるしかない。

 であれば一応、得物があるにはある。自ら作った運搬用刀袋に入れた刀や、すでに出している木刀である。しかし……真剣を使うのは気が引けた。というか、使いたくないというのが本音だった。

「切ってどうなるかわから――」

『逃げて!!!』

 私が馬鹿なことを呟こうとしたそのとき、開いているところから先ほどのロボットが発した怒号が聞こえてきた。そしてそれと同時に入ってくる、謎の生命体。そちらに目を向けて肉眼で謎の生命体を視認した。

「……む?」

 それを目にした瞬間……言いようのない何かが、胸に去来した。それに違和感を覚えたのだが、そんな場合ではなかった。

【■■■■!!!】

 耳に聞こえない……奇っ怪な音のような物を聞いたと思えば、謎の生命体がこちらに飛びかかってきた。流石に簡単に殺されるつもりはないので、思わず反射的に、すでに取り出していた木刀を持ち直して構えようとした。


 その時だった。


(……なんだ?)

 構えようとしたその瞬間……全ての動きが遅くなり、自らの思考が加速した。しかも謎の生命体の動きを、はっきりと捉えることが出来ていた。それどころか……この謎の生命体がこちらに飛びかかって、右の爪を振りかざして襲ってこようとしているのが、現実の光景とずれて見えた。

 この感覚は何度か覚えがある。真剣を用いた稽古の際に何度かあった……脳みそが極限に活発に活動することで、周りがゆっくりと見える極限状態。そして……それによる相手の行動の先読み。稽古にて調子が良いときに、起こったことは何度かある。

 だが……こんなにも周囲がゆっくりになった上に、ここまでしっかりと先読みが出来たこともない。さらに自らの体が凄まじく緩やかにだが、確かな疾さを持って動いたのだ。

 思考が鋭くなり、先読みが出来ても体が動かなければ意味がない。しかし体の動きは、間違いなく生涯で一番よく動けた。確かに若返ったと思しき肉体だ。老人の体よりも動けるのは当然だろう。それを差し引いても、あまりにも動きが良すぎた。

 そしてそれ以上に驚きなのが……体の動きが良いことを疑問に思う前に、体が動いて最適な形で、未確認生物を木刀で迎撃をしたのだ。

!!!!!

 殴ったとき、何とも形容しがたい感触が手に来た。エイリ○ンのような見た目だが、流体金属生命体のような存在なので、脳みそといった重要内臓器官などの、明確な弱点というのがあるのか謎だった。しかし、それでも咄嗟に、頭部と思しき箇所を攻撃していた。そして私の剣撃が当たると、致命傷だったのか動きを止めて、流体となって床に消える。

「……ふむ」

 仮に本物のエ○リアンであったとしたならば、木刀の一撃で沈むとは思えない。死ぬつもりはないので確かに殺すつもりで木刀を振るったが、それを差し引いても敵が軟弱すぎた。もしくは逆説的に、私の体がおかしいのかもしれない。

(目もそうだが……肉体能力も向上しているのか?)

 生涯で何度かあった極限状態。そしてその極限状態の思考に追いつくことの出来る肉体。そして木刀を振ってみてわかったが、筋力が増している様子だった。今の剣撃は、普段振るっていたときよりも、鋭さと力強さを確かに感じた。

 自身の身に起こっている出来事だけでなく、己の体のことも色々知らなければいけないようだがそれはそれ。今はそんな場合ではない。

【■■■■!!!】

【■■■■!!!】

 次々コンテナに入って襲ってくる敵を捌かなければ、こちらが殺されてしまう。故に、無我夢中で私は木刀を振るった。




(……な、何なのこの人?)

 思わず叫びたくなる思いだった。必死になって戦っている最中だけど……もしも他の人がこの状況に陥り、オーラスーツとリンクしたコンテナ内部の映像を見れば、同じ気持ちになるという強い確信があった。

 オーラスーツで必死になって戦っていた。だけど中距離砲撃戦仕様ではどうしても迫り来る数に対応できない。今背負っているバックパックがライフルではなく、オーラアサルトライフルであればまだ薙ぎ払うことで、対応できたかも知れない。しかし現実に今装備しているのは、単発で撃つライフルだ。無い物ねだりをしても仕方がなかった。

 それでも必死になって対応した。何せ民間人だけでなく、オーラマテリアルも積み込んでいるのだから、逃げるわけにもいかなかった。装備された武器で何とか対応していた。けれどハンドガンで、この数に対応できるわけもなく……人型種がコンテナの中に入り込んでしまった。

『逃げて!!!』

 言葉が通じないとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。逃げたところで外には無数の人型種だ。助かるはずもないのだけれど、思わず叫んだ……そのときだった。


 民間人が……手にしていた棒でFMEを撲殺したのが、目に映ったのは。


「……え?」

 戦闘中だというのに、思わず間の抜けた声が私の口から漏れていた。まともな武器を使用した軍人が戦えば、どうにかなるのがFMEの人型種だ。それをこの民間人は……あろう事か木の棒で葬り去っていた。その動きも驚異的だが、そのときになって私は初めて……この民間人から漏れ出るオーラエネルギーの数値が、異常だと言うことを認識した。

 しかも生身だけでなく、手にしている木の棒も今まで見てきた武器の中で、かなり上位のオーラエネルギーが放出されていることに気づいた。

(こ、この人……)

 それだけに飽きたらず……少し落ち着いてこの人の動きを見てみれば、その動きも異常だというのがよくわかる。次々襲ってくるFMEを何の危なげもなく攻撃を避けては、反撃の一撃で屠っている。何が起きているのか……全くわからない状況である。

(な、なんて異常な……)

 攻撃が強いのは何となくわかった。生身だけでなく、手にした木の棒からもオーラエネルギーが放出されている。その打撃をまともに受ければ、FMEが倒れるのは道理だ。

 けれど常識的に考えて、特殊な個体ではない人型種であるとはいえ、アクティブスーツすらも纏わずに、接近戦が出来るわけがない。しかも一撃で敵を屠っているため……コンテナから溢れかえっても不思議じゃないほどの人型種が雪崩れ込んでいるはずなのに、この人は動き回っていた。

「……死なせるわけには、いかないわね」

 先ほどまでは軍人としての義務として、私はこの人を生かそうと思っていた。だけど今はそんな物は、良くも悪くも吹き飛んでしまった。

 普通種の人型種とはいえ、FMEに戦うことの出来る実力を持ち、そして身につけた物のいくつかから、凄まじいオーラエネルギーが検出されている。

 そして……自動翻訳機が翻訳できない未知の言語を操る者。先ほどの応対を見てもこの人が異常者……別の意味で十分異常者なのだけど……でないことはわかっている。


 コンテナに積まれた新たに発見したオーラマテリアルと、この不思議な男性。


 何かが起こるはずだ。それも……私たちにとって良いことが。そう確信させられる思いが、胸の中に湧いてきていた。

 だから……この人は絶対に生かして、基地に連れていかなければならない。

「気張って、私! 力を貸して、ラーファ!」

 思わず……私は勝手に愛称を付けた、自分のオーラスーツの名を呼んでいた。それに答えてくれているように……オーラドライブが唸りを上げている。全ての中型種が片付けられたので、私はオーラライフルの出力を最大に上げて、敵の数が多い場所の地面を撃った。

!!!!

 地面に着弾したオーラエネルギーが爆発して、複数の敵を吹き飛ばした。ライフルは元々単発で、貫通力と射程を求めた武器だけど、物体の弾丸ではないオーラエネルギーであれば、こんな芸当も出来なくはない。けれどこれはライフルに負荷がかかるから、普段はしない攻撃方法だ。けれどそれをしなければ……男の人を守ることが出来ない。

 幸いなことにすでに小型種しか近辺にいない。ならば大型の敵に有効なライフルを遣い潰しても、最悪は問題がない。

「もって、ラーファ!」

 再度、自らの相棒にそう叫んだ。コンテナ内の男の人を確認しても……未だ雪崩れ込んでくる人型種を、屠り続けている。驚くことに先ほどよりも、動きが洗練されているように思えた。先ほどコンテナの計測機で男の人を計測するように指令を出した、その計測結果がそれを証明していた。

【■■■■!!!】

【■■■■!!!】

「っふ!」

 鋭い呼気と共に振るわれる、木の棒の打撃。その全てが一撃必殺となって、FMEを消滅させていた。何せ数が多い。次々襲ってくるFMEに、二度も三度も攻撃する余裕などあるはずもない。だから全て一撃で殺すように心がけているのだろう。

(けど……どうして男の人ばかり狙うの?)

 高出力のオーラライフルによる爆発攻撃で、何とかコンテナに雪崩れ込む敵を少なくしようと攻撃をしていた。人型種も油断できる相手ではないが、普通種ではオーラスーツを貫通するほどの攻撃をすることは難しい。そのため私には目もくれずに、人型種がコンテナに雪崩れ込むのはわからないでもない。

 わからないのは、コンテナの中には男の人だけでなく、オーラマテリアルも積み込まれている。それも最高と称して差し支えないほどの……高純度のオーラマテリアルが。FMEが群がるのは必然とも言える、オーラマテリアルが側にあるというのに、今雪崩れ込んでいるFMEは、男の人のみを狙っているように見えた。

 確かに厳重な保管箱に入れられているため、人型種では保管箱を破壊するのが難しいというのはあるかも知れない。それを差し引いても男の人に群がっているようだった。あまりにも不可解な事が多すぎる状況だ。

(なんて言うか……凄い状況だなぁ……)

 問題なく人型種を相手にしている男の人。状況的に仕方がないとはいえ、民間人である男の人を信じ切って、FMEに対処している私。もう何が何だか……乾いた笑い声が出てしまいかねない思いだった。

 ともかく……この状況を打破するために、私は必死になって攻撃を行った。


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