第4話 ロボット
覚悟を決めてクレーターへと降り立ち警戒しながら、期待と不安を胸に秘めて、落下した物体へと近づいていった。近寄って確認すればそれは間違いなく、コンテナ状の物体だった。
創作物とかでよく見る移動拠点そのものと言って良い物だった。といってもかなりでかい。大型トラックが輸送するコンテナみたいな見た目なのだが、細長くはない。大型トラックのコンテナを、二つ正方形になるように連結させた位のサイズと形状だ。
そしてここまで近づいたのだが……特に反応がない。何が入っているのかは謎だが、このコンテナは落下してからそんなに時間は経過してないように思われた。何せこのコンテナには経年劣化が見られない。今歩いている地面も、先ほどまで歩いていた地面と様子が違う。このコンテナが落下したことでクレーターを作った……そう思われた。
開けられるかは謎だが、かといって開ける勇気は無かった。というよりも、開け方も分からないし、コンテナに見えるだけで、コンテナでない可能性もある。
「……果たして、何が出てくる物か?」
罠やら地中から突然何かが出てくることもあり得なくはないので、一応警戒して……くぼんだ地面の様子から、恐らく出来たばかりのクレーターなのでそこまで警戒してはいなかったが……接近し、コンテナに触れられる距離まで近寄ったが、そこから先どうすべきか悩んだ。
中をのぞき込む窓でもあればまだ良かったのだが、そんな都合の良い物がない。
(さて……これは一体なんなの?)
どこから落ちてきたのかは謎だが、下手をすれば成層圏よりも上……つまり宇宙から落ちてきた可能性もあり得なくはない。私が住んでいた現代でも、宇宙というのは遠き場所だ。一部の富裕層は多少なりとも宇宙空間にいけた……といっても一時間ほど宇宙遊泳が出来るだけだが……が、少なくとも軌道エレベーターは机上の空論であった。宇宙ステーションはあったが、そこに行けるのは本当に一握りの人間のみ。どれだけ大金を払っても、民間人でもいけるような宇宙ステーションは存在しなかった。
(まぁ宇宙からは流石にないだろうが)
このコンテナがどれだけの質量があり、また落下の衝撃を吸収するためのブースター等が搭載されているかは謎だが、このクレーターの規模ではそこまで高々度から落下してきたとは思えなかった。
(しかしこれは一体何のコンテナだ?)
宇宙は別にしても、マンガやゲームで見るような緊急脱出コンテナみたいな物が、実用化されていたとは知らない。故にこれが生物が乗る救命コンテナなのかも謎だ。下手をすれば……
「爆弾と言うことも……あり得るか……」
廃墟に爆弾を投下する理由は不明だが……あり得なくはない。そうしてコンテナの側でどうすべきか悩んでいたのだが……ありがたい?事にコンテナからアクションを起こしてくれた。
ピー!
甲高い電子音が鳴り響き、コンテナが割れた。しかし歪んでいたのか途中で止まってしまう。直ぐに中から何かが押したような感じでこじ開けられた。何が出てくるのかわからないので、咄嗟に少し離れて木刀を構えた。
しかしそれは色んな意味で無駄だということが判明した。何せコンテナから出てきたのが……
ロボット
だったのだから。
「なんと……まぁ……」
構えを解いて……私は呆然とそのロボットを見た。割れたコンテナから起き上がり、立ち上がった。大きさは……大体3mほどだろう。角張ったデザインをしている。背中にはブースターと思しき推進機関が見える。その推進機関両側に銃と思しき細長い筒状の物があった。
そして驚いたことに……左腰に十字型の物が装備されていた。それはどう見ても……直剣だった。ロボットがありそして銃と思える武器もあるというのに……まさか両手剣を装備にしているというのが、実にアンバランスに思えた。
『動くな!?』
外部音声といえばいいのか……ロボットのどこからか音が発せられた。そしてそれと同時にこちらに体の向きを変えて、右腰に装備されていた拳銃と思える物をこちらに向けてくる。どう考えても生身の……仮に真剣を装備していても、ロボットが相手なので丸腰と同じだろう……人間が勝てるわけもないので、私は木刀を地面に置いてから両手を挙げる。交戦する意志がないという意思表示だ。
「交戦の意志はありません」
先ほど聞こえてきた音が言葉であれば、間違いなく言葉が通じないだろう。ここでも転移による特典がないことで落胆するが……それどころではない。どう考えてもロボットに生身で勝てるわけがない。
そんな私を注意深く見ていたロボット。正直殺されるのではないかと気が気ではなかった。ロボットサイズの拳銃だ。撃たれれば確実に死ぬだろう。手足を撃たれた場合でも、撃たれた手足が引きちぎられるのが容易に想像できる。
(まぁその場合でもショック死するだろうが)
中に人が乗っているのか、もしくはこのロボットが金属生命体なのかは謎だが……少なくとも言語らしき言葉を喋り、こちらに銃を向けながらも即座に射殺してこない。その時点で知的生命体であることを疑う余地はなく、そしてこちらと意思疎通をしようとしている事もわかる。変な動きをしなければ、ロボットに殺されることはないだろう。
あくまでも、ロボットには……だが。
!!!!
『警報!?』
けたたましい音がコンテナから鳴り響き、それに反応するように言葉を発するロボットだった。その声に焦燥感と思える響きがあった。そして私に向けられていた武器がしまわれて、私を指さした後に、先ほどまでロボットが入っていたコンテナに指を向けた。
『中に入って!』
なんと言っているのかはわからないが、動作で何を要求されているのかは理解できたので、私は足下に置いた木刀を拾い上げてコンテナの中に入った。コンテナの中はちょっとした基地のような感じだった。ロボットを寝かせて固定するハンガー。予備の武器。
そしてこれが朗報だったのだが、椅子と思しき物や、見ても何の機械かは不明だが、サイズ的にちょうど人間と同じと思しき機器類があった。さらには4段に連なった簡易ベッドらしき物も見える。見た目はまだ謎……獣人だったり魚人ということもあり得なくはない……だが先ほどのロボットが、機械生命ではなく完全に兵器であると認識できた。
しかしそんなロボットの中身が人と同じサイズと確認は出来たが、このコンテナの中には隠れられる場所はなく、落下の衝撃で所々が破損している様子も見られた。
(この状態だと逃げ場がないが……まぁ身を隠せるだけでもありがたいか)
そしてこれがもっとも重要だが……ハンガーの側に正方形の箱が鎮座していた。金属製の箱で、かなり頑丈にコンテナの床に固定されている。そしてバイ○ハザードのマークといえばいいのか? それと似たような実に危機感を駆り立てられるマークが刻印されていた。
「明らかに……やばいものだろうな……」
そうは思うのだが……何故か知らないが、その箱には何故か自らの意識が吸い寄せられるかのような感覚を味わっていた。実に不思議な感覚で何とも言いようがないのだが……間違いなく気になる何かが、あの箱の中に入っている。そんな気がした。
だが、当然と言うべきか……気になるからと言ってその箱に手を出すほど私も馬鹿ではない。先ほどのロボットの様子から言って、何かしらやばい事態に陥ったと考えられる。その上で私をこの中に入れてくれて、自らはまだ外に出たままということは、私を保護するつもりがあると言うこと。
そして今の状況下において、ロボットが私を……民間人を軍用設備の中に入れて保護し、ロボットは外に出たままでいるというのは、普通に考えて……
「敵が来たようだな」
そう考えるのが自然という物だろう。果たしてその敵がどんな物かは謎だが……この面妖な状況を乗り越えられることを、祈るのみだった。
「どうしてこんなところに民間人が?」
オーラドライブを戦闘出力へと上昇させながら、私はそんな悪態を吐いていた。
今までに類を見ないほどの凄まじい出力を誇る、オーラマテリアルが突如として出現した。それもそう遠くない場所に。その情報に私たちは喜びに沸き立った。
ある日宇宙より飛来してきた巨大隕石。そこより出でた流体物質生命。それがFMEだ。調査に赴いた調査団が吸収されたことで危険と判断し、殲滅しようと当時の軍が攻撃したが、滅ぼすことが敵わずFMEとの戦争が始まった。言語を持たないのか、自動翻訳機でも翻訳できないので意思疎通を行うことも出来ず、すでに数世紀以上の年月が流れている。
流体金属のような見た目の敵だが、開戦当初は有効打がない上に、圧倒的な数による蹂躙によって、人類はじわじわと追い詰められてしまった。戦争が開始される遙か前から研究されていた、オーラマテリアルが軍事転用されたことで、なんとかFMEに対する決定的な武器となったが、数が絶対的に足りてない状況だった。故にこそ、純度が高いオーラマテリアルの発見は、FMEとの戦争において希望と言って良いほどの物だった。
回収は何とかうまくいった。しかしその帰路にて、敵の猛攻を受けて輸送機が大破してしまった。何とか回収したオーラマテリアルを、簡易拠点コンテナに収納し、コンテナ事脱出に成功した。
「他の人たちも……無事なら良いのだけれど」
輸送機に積み込まれたオーラスーツは私の機体のみだった。他にも調査用の車両や移動機器はある。戦闘こそ出来ないが人数分の移動機器はあった。脱出する際は全員が無事に脱出し出来たのは確認している。その後、無事に基地に帰投できたことを、願うしかない。
「それに……今は人の心配をしている場合じゃないか……」
オーラドライブの出力を上昇させつつ……私は緊張で浅くなる呼吸を必死になって整えていた。実戦は何度も出ている。腕にもそれなりの自信があった。私が今乗るこの機体も、戦績がいい私のために、調整してくれた準特別機だ。
けれど……これほど絶望的な状況は初めてだった。
「周囲全てが真っ赤って……」
網膜投影によって直接瞳に映し出された、周囲を警戒する三次元立体マップ。自機を中心に半径5キロの状況を教えてくれる。そのマップに映し出されたのは……今まさに、こちらに近寄ってきている無数のFMEの赤い光点だった。マップが小さいからというのもあるかも知れない。けれどもそれ以上に純粋に数が多いのだろう。
不幸中の幸いなのが、この地域がFMEにもすでに放棄されて久しい土地だ。レーダーに映し出されたのは大型種がおらず、中型も八体だ。
だが人型種が異様に多い。こちらのオーラスーツ、そしてFMEの性質上、小型サイズの方が物を探しやすいことは間違いない。けれど、ここはすでに放棄されて長い時間が経っている。そんなところに、人型種とはいえこれほどの数が未だにいるのは、謎だった。
そして不幸中の幸いといっても……それは私だけならという観点で見ればだ。状況は文字通り絶望的だった。私だけなら大型種がいないこともあって、オーラスーツで逃げている。しかし何故かいた不思議な格好をした民間人を見捨てるわけにはいかず、また回収したオーラマテリアルも、捨てていくわけにはいかない。オーラマテリアルは、非常に繊細な物だ。先のコンテナの墜落で衝撃を与えて、不具合などがないことを祈るしかない以上、これ以上動かすのは避けたかった。
そしてオーラマテリアルはこちら側だけでなく、FMEも回収していく物質。渡すわけにはいかなかった。故に……輸送機が襲撃されたときに発信した救難信号を辿って、救援が直ぐに来てくれるまでここで粘るしかなかった。
ただありがたいことに、レーダーを見る限りでは大型種がおらず中型種も八体。恐らく中型種は今この機体が装備している遠距離武器で、近づかれる前に倒すことが出来るだろう。
問題は人型種だ。人型種ははっきり言ってそこまで強くはない。最低限の装備を整えれば、オーラスーツを使用しなくても十分に対応できる。
ただ数があまりにも異常だった。周囲を埋め尽くさんばかりの人型種の数。今私が乗っている準専用機のオーラスーツの装備は、中距離砲撃戦仕様だ。中型種相手がある意味で一番戦いやすい。マシンガンやガトリングを装備していないため、数を捌くのははっきり言って無理だ。
更に言えば、これがまだコンテナが無事なら、何とか救援がくるまで耐えられたと思われた。けれどコンテナは輸送機の襲撃時に一部が歪んで機能不全に陥っている。このコンテナにオーラマテリアルが積み込まれていなければ、さっさとオーラスーツ単体で撤退しているところだ。
それが許されないのはオーラマテリアルが積み込まれていることと、民間人がいることだ。民間人を見捨てて敵前逃亡など、出来るわけもなかった。
「……この男の人」
戦闘準備を進めつつ、コンテナの機器とリンクしたカメラで男の様子を見る。不思議な格好をした男性だ。見たこともない衣服を身につけているし、肉体も無駄のない体をしているが、屈強とは言えない肉体であることが、オーラスーツの分析によってわかっている。どう見ても軍人ではない。ただの民間人が、FMEがいるかも知れないエリアにいる理由が分からなかった。
さらに、何でか知らないけれど、翻訳機が機能していない。自動翻訳機はほぼ全ての言語の翻訳をしてくれる。なのに先ほどこの男性は、私の言っていることが理解できていない様子だったし、私もこの男の人が発した言葉の意味が理解できなかった。
それはつまり翻訳機に、男性が使用する言語に対応できていないと言うこと。私が知る限り……そんな人は今まで会ったこともなければ、記録として見たこともない。
放棄されて久しい廃墟にいた。未知の格好、未知の言語を使用する、民間人の男性。あまりにも不思議な存在であるため……これから死闘が始まるというのに、興味深くその人を見つめてしまった。
【■■■■■■■■■!!!】
そんなときに、FMEの咆吼が周囲一帯に響き渡った。響いたといっても耳に聞こえているわけではない。オーラスーツの集音器にも拾うことが出来ず、実際に空気を振るわせているわけでもないのに、何故かFMEが咆吼を上げたことがわかるのだ。
「がんばらないと……」
高速で近づいてくるFMEの群れを視認し……私は操縦桿を握る手に力を込めて、引き金を引いた。
「先手必勝!」
バックパックに装備された、オーラライフルにエネルギーを込めて……中型種へと向けて発射した。
この出会いが……私の今後を大きく左右する、大きな出会いであることを、私はまだ知らなかった。
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