雲鶏真村
エリー.ファー
雲鶏真村
「この村は呪われているのですよ」
「分かっています」
「呪われたいのですか」
「はい」
「罪深い嘘が闇に変わっていくのだ」
「恋情である」
「片隅である」
「桃色である」
「金色である」
「土地である」
「地球である」
「剣豪である」
「想像である」
「落語である」
「世界である」
「春陽である」
「黒衣である」
「愛好である」
「羽場である」
「キャンディバル、ケンデッドジョウジョウモートワール。イルニツィッツレンデアールノトワールド。ボンクライズベンヴォーコウー」
「この村から出る方法を探しているのです」
「ありません」
「ポケットの中には何も入っていなかった。犯人の動機も分からない。何が生まれ、何が死んでいったのかすら、皆目見当もつかない。いつの間にか、すべて消え去ってしまうのだろう。そうだ。そう、この殺人事件には謎がない。解き明かすべきものがない。つまるところ、この村が呼び起こした伝説と言えるのだろうな。後輩も亡くなった、署長は自殺をした。もはや、私の方が、この村においては異端となってしまった。歴史が繰り返されている。乗っ取りは始まってしまったということだろうな。何事だろうと、すべて記録するだけだ。明らかな情報を真実として語るのではなく、何事も真実とするべきだろう。もう少しだけ、私に権力があり、記録できるだけの力があればよかったというのに。あぁ。妻も娘も失った私に、最初からこの村以外に大切なものなどなかったはずだ。そう、そんなこと、最初から分かっていた。忘れようとしても脳にこびりついていた」
「何を言っているのですか」
「言い訳だ」
「言い訳の割には長かったように思います」
「長さは関係ない」
「長さではなく、密度が重要であると」
「いや、寂しさを抱えていればいるほど、言い訳として光り輝くのだ」
「またも、嘘をついている」
「嘘ではない。真実に近い何かだ」
「真実に近いということは、真実ではないということですね。ならば、嘘です」
「もう、すべて忘れてくれ。私のことを無視してくれ。結局、家族も村の歴史も未来も守ることができなかった。逃げ続けた負け犬の呪われた姿だ」
「つまり、村が人を呪ったのではなく、あなたがあなた自身を呪ったということですね」
「そう、そういうことになるな」
「いい生き方をしていますね」
「自分の人生に、ピリオドを打ちたいんだ」
「文章とは、他人に打ってもらうものです」
「送ってくれ」
「どこに」
「村のどこかへ」
「村の外だと言うとばかり思っていました」
「村の外に世界なんかない。私はずっと、この村に閉じ込められて、被害者意識を抱えていたのだ。何事も、大切にするべきだとは思うが」
「思うが、なんでしょうか。あの、もしもし。あぁ、ダメだ。終わってしまった。だから、こういう軟弱な個体を捕まえてくるな、と言っているのに。はぁ。どうしよう。処理をするにも金がかかるし、そもそも、死なせたということが問題になりかねない。どこかで燃やしてしまうか。さて、どこかいい所はないかな。あっ、こいつ、意外と重いな。全く、困ったものだよ」
雲鶏真村 エリー.ファー @eri-far-
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