第85話 ぶん殴られる覚悟で

 俺は全身から汗を吹き出して、大事な局面を迎えていた。

 

 楽しくて最高の聖夜を過ごしてから数日。


 年越しになったことで、俺は瀬羽家へと挨拶にやってきた。


 正月の挨拶も兼ねて、スミレ、ユミ、ジュリア、三人の両親が俺の前に座っている。


 四人の俺よりも十個ほど年上の大人たち。

 三人の俺よりも十個ほど年下な娘たち


 その間に挟まれる俺は汗が止まらない。


「ふふふ」

「ほうほう、へぇー」


 葉月さんのお姉さんである双葉さんは、とても優しく微笑んでくれている。

 ジュリアに似た雰囲気をしているが、やっぱり葉月さんとも似ている。


 しかし、二人の親父殿は腕を組んで怖い視線を俺に向けていた。


「お父さん、ヨウイチさんを連れてきました。挨拶をしてください」


 スミレには珍しく、鋭い視線をお父さんに向けるスミレは今まで見たことがないほど冷たい視線を向けていた。


「うっ! うむ。紐田君、久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです。この度は、新年の集まりに呼んでいただきありがとうございます」

「呼んだつもりはないが」


 ボソボソと呟くダイスケお父さんに呼んでいると言われてきたんだが。


「お父さん! 嫌いになるよ」

「うっ!


 ユミの一言で、ダイスケお父さんはぐっと奥歯を噛み締めて、深々とため息を吐く。


「よく来たな。紐田君。それで? 今日は挨拶をしに来ただけかね? それならばいくらでも歓迎するが」


 これは威圧的な言葉で帰らせようとしているが、俺はここで言わなければいけないことがある。


 ただ、もう一人の外国人のお父さんは、ただ腕を組んで俺を睨んでいるだけで何も言わないのが余計に怖い。


「今日は、娘さんたち三人とお付き合いさせていただいていることをご報告させてもらいに参りました」

「きっ、貴様!!!! とうとう言いおったな! やっぱりスミレだけでなくユミのことも手籠にしていたか、ええいそこに直れ! ワシが切り捨ててやろう! この恥知らずめが!」


 飾られていた刀を持ってダイスケお父さんが立ち上がる。


 それを制したのは、もう一人の外国人のお父さんだった。


「ストップ!」

「むっ!」

「ブラザー?」

「ヒモタさん!」

「はい!」


 外国人のお父さんは、カタコトで俺の名前を呼んだ。


「ジュリア。あなたはヒモタさんと付き合えてハッピーですか?」

「はい。ファザー。私はハッピーよ」


 カタコトなお父さんに合わせて、ジュリアも返事をする。

 

「ソウデスカ。わかりました。ダイスケあなたの負けです」

「なっ! スティーブ! 何を言うんだ! こいつは我々の愛すべき娘たちを三人とも弄んでいるんだぞ!」

「ノー、ヒモタさんは弄んでいません。もしも、彼がジュリアたちを弄んでいるのであれば、我々の前には現れないでしょう」

「む〜、しかし」

「それに、ヒモタさん」

「はい?」


 スティーブ父さんが、俺に対して問いかける。


「君は彼女たち三人を愛しているかね?」

「迷いなく愛していると言えます」

「OK。今の私はそれを信じます。ダイスケ」

「なっ、なんだ?」

「ヒモタさんのことは、私もまだわかりません。ですが、彼は我々に殺される覚悟も殴られる覚悟もして、彼女たちを幸せにすることを伝えにやってきた。それは決死の覚悟です。大和魂です!」


 スティーブ父さんが言うような覚悟があるのかはわからないが、確かに殴られる覚悟はしてきた。殺される覚悟まであるかと聞かれればわからないが、それでも決死の覚悟できたことは事実だ。


「ぐぐぐ。ならば殴らせろ!」

「ハァーダイスケは大人気ないね。ヒモタさんどうですか?」

「構いません! お父さんが気の済むように!」

「OK、ダイスケもそれでいいね? それで遺恨はなしだ」

「くっ! わかった」


 俺たちは広い日本庭園の中庭へと移動して覚悟を決める。


「HA HA! まずは私からだ!」

「えっ?」


 ムキムキの腕に、毛が生えて明らかに次元が違う腕がまくられる。


「ジュリア! 私は強い男にあなたを託したい!」

「わかっています! ヨウイチ! 頑張って」


 何を頑張ればいいのかわからないが、応援されて、覚悟を示した以上はやるしかない。


「いいかい?」

「いつでも」

「よろしい。ジュリアは子供の頃からとてもキュートで、大人になってどこに出しても恥ずかしくなセクシーな女性に成長した。それを……キルユー!!!」


 太い腕がそのままに俺の首を捉えるようにラリアットがお見舞いされる。


 一瞬で息ができなくなって、意識がブラックアウトしてしまう。

 しかし、ここで倒れては認めてもらえない。


「ゼェゼェゼェ」


 今までの幸せな時間の代償だと言うなら、軽いくらいだ。

 どれだけ俺が彼女たちに幸せにしてもらったのか、わからない。


「OK。私は満足だ。ダイスケ。あとは君に託すよ。ヨウイチは私の渾身のラリアットに耐えた」

「ふっ、ふん。あれに耐えたからと言ってなんなんのだ」


 なぜか意識が朦朧とする中で、ダイスケお父さんが戸惑うような視線を向けていた。


「ゼェゼェゼェ」

「紐田陽一君。責任は取ってもらうぞ! 二人を幸せにしてくれよな」


 意識が朦朧とする俺の頬を綺麗に撃ち抜いたダイスケお父さん。


 脳が揺れて、先ほどの衝撃と合わせて、倒れそうになる。


 だけど、これも同じだ。

 二人はずっと俺を幸せにしてくれた。


 だから、俺は耐えなくちゃならない。


 仁王立ちしたまま、俺は耐え切った。


「クレイジー」

「ふん」


 そう、俺は仁王立ちしたまま意識を手放した。


 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


残り2話です。

最後までお付き合いいただければと思います(๑>◡<๑)

どうぞよろしくお願いします。

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